その世界は一つでありながら多様の顔を持ち、同一ではない不思議な世界であった。
どれもが独自の世界観と・・・そして危機を抱えていた。
しかし、そんな世界にも一つだけ共通点があった・・・。
それは、どの世界であっても・・・荒野と西風と運命に舞う一片の木の葉でありながら
大木のごとく、世界の命運を支える存在でもある人々の姿。
そんなこの世界は世界を作り出した古(いにしえ)の自然神・・・
ガーディアンたちの古き言葉により、こう称されているという。
・・・・・・ファルガイア・・・と。
漆黒の、足元すら見えない闇の中で一人の少年が杖に身を預け、祈りを捧げていた。
民俗衣装のようなはだけて着た上着に吊りベルト付きの半ズボン、
少女のような顔立ちの上に膝まである長い金色の髪を三つ編みにして、
根元に大きな赤いリボンを付けていた。
瞳は右が紫色で、左眼は全てが漆黒の闇になっており、中央に金色の瞳孔が細く輝く。
その手に握られているのは巨大な星のきらめきのような光を灯す漆黒の鎌、
いや、よく見なければわからないのだがそれは“杖”であり“剣”であり、そして・・・“鍵”
「・・・・・・やっぱり無理か」
少年らしくない悟りきった調子でばさりと髪を掻きあげて立ち上がり・・・
「思ってたよりも弱いんだね・・・本当に」
ぞっとするほど美しく、挑発的な笑みを浮べた・・・その時だ。
彼の前に唐突に何かが現れたのだ。
その様子に少年は杖でトントンと肩を叩いた後、両肩に担ぎ疲れた表情でそれを見上げる。
その場にもしも、誰か別の者がいたとしても・・・その目には何も映らないだろう。
また、彼の特殊な目をもってしても・・・それは光と闇の塊でしかなかった。
何故なら彼らは荘厳にして畏怖すべき、絶対にして完全なる者たちだからだ・・・。
「やっと出てきたみたいだね・・・遅いよ」
そんな彼らの本当の姿が見えるにも関わらず・・・いや、見えているからなのか・・・
少年は尊大な調子で言い捨てた。
『やれやれ・・・最高神を顎で使う巫子なんてお前が初めてだぜ・・・』
「なら、言わなくてもわかるよね・・・」
白い光に見える人物の言葉に反応して彼は躊躇なく、自分の左腕を切り落とした。
地面にごとりと落ちたそれを自分の右手で拾い上げ、二つの光の間に差し出した。
「代償はボクの腕一本・・・足りなきゃ足も持っていけばいい・・・」
『ク・・・クククククク・・・ハハハハハハハハハハハハハ!!!』
黒い闇が・・・突然笑い出した。
『その根性・・・・・・認めてやる・・・・・・』
『おい・・・まさか・・・』
白い光がうろたえるのも無視して黒い闇が・・・咆えた。
『その腕を代償として・・・汝に“未来”を与えよう・・・』
黒い闇が、少年の右腕にからみつき、大口を開けた蛇のようにそれを飲み込む。
『左手に剣を携えよ・・・それは暗き闇を切り裂く、何者にも屈せぬ、強き力にして
汝の歩みの先を切り開く・・・全てを作り上げる力・・・』
「!?」
一瞬驚く少年の目の前で左腕のあたりに光が集まったかと思うと、
次の瞬間には切られたはずの左腕が元通りになっていた。
しかし、先ほどと違い、腕には剣をイメージしたよう痣が入っている。
「『未来』のガーディアン・・・か?」
片手を握ったり、開いたりして調子を確かめる彼。
「『破壊』はどうするつもりなんだい?」
『さすがにネオ・ガーディアン二体はいきなり無理だ・・・』
「・・・・・・失礼だね、そんなにボクはヤワじゃない」
闇のため息まじりの呟きに不満げな顔をしてみせる彼。
『とりあえず・・・この手のネタは・・・』
『時限召還だな』
闇と光が呟き。
「どうでもいいけど、頼むよ」
少年が投げやりに答えたその瞬間。
全てを覆いつくすような暗闇と・・・全てを消し去るような輝きが・・・
長く、そして瞬時に彼の瞳に焼きついた。
「ねぇ、本当に任せていいの〜〜」
心配そうに彼女はショートカットの赤い髪に巻いた緑のバンダナを揺らし、巨大な扉を見上げる。
耳には三日月のイヤリング、ノースリーブの丈の長い上着をベルトで締め、ジーンズを履き、
腰に黄色いスカーフをルーズに結び、橙色のマントを羽織っていた。
おそらく、この世界では「何でも屋」的な意味合いを持つ冒険者・・・「渡り鳥」なのであろう。
「うちが信じられへん?」
答えるように振り向いたのは薄い透けた水色の髪に深紅の瞳をした少女であった。
こちらは、先の彼女と違い・・・かなり特異な容貌を備えていた。
透けたような白い肌に尖った耳、そして口元からのぞく牙・・・
おそらく・・・この世界で絶滅したと言われたはずのノーブルレッド種なのであろう。
彼女は筒状の体に細い手とキャタピラ状の足を持つオレンジ色の小型ロボットの頭の上に座布団を敷き、
その上に座り込み、巨大な扉を見つめている。
暗くてよく見えないが・・・その手には少し禿げ掛けた塗料によってイラストの入った数枚の石版がある。
彼女らの目的は、この巨大な扉の奥にあるはずのもの・・・。
だが、その扉を開くためにはこの謎を解かなければいけないのだが・・・。
「いや、そ〜いうわけじゃないけど・・・」
ぽりぽりと頭を掻く先ほどの女性。
彼女も少しはトレジャーハントでならして来たのだが・・・今回ばかりは勝手が違う。
ここは隠されたノーブルレッドの聖地。
少女の腕と血ではないと封印が解けないのである・・・。
「なら、ええやないの・・・・・・悪いんけど、ちょこっと黙っててくれる?」
今度は振り向きもせず、目の前に書かれた文字と石版を凝視する少女。
『王をあがめよ、我らの王を・・・王は来るべき時に蘇る・・・』
「(“来るべき時”・・・“我らの王”・・・・・・我らの王ってことは・・・夜やね・・・)」
思考しつつ彼女は手元に視点を落とした・・・。
そこに描かれていたのは・・・太陽でも月でも、星でもない・・・。
瞳と、牙と、角と、腕と、口と、足なのである。
「(これでどない表現せぇ言うんやろ・・・)」
長い髪を振りたくり、膝の上にプレートを凝視しつつ頭を抱える彼女。
それに気がついたのか、彼女の下のロボットがぴこぴこと機械音を上げて応援する。
「ねぇ、ラグベル・・・キーワードって何?」
またも沈黙に耐えかねたのか女性。
「・・・・・・夜」
さすがにそろそろ混乱してきたのか、頭を掻きつつ答える少女。
「それならさ、瞳じゃないの?」
「・・・・・・・・・は?」
唐突な言葉に彼女は唖然として振り返る。
「だって・・・ほら、これ・・・縦瞳孔じゃない、猫って言ったら夜でしょ?」
そう言われて指差された瞳のプレートに描かれた瞳孔はたしかに縦に細かった。
「・・・・・・・・・・・・ほんなら」
何とか思考を立て直した彼女はゆっくりと、震える手でプレートを溝に収めようとして・・・腕を止める。
「・・・・どうしたの?」
不思議そうに手元を覗き込む彼女を無視して、
ラグベルは胸に下げていたペンダントを握って目をつぶる。
「運命の女神さま、運命の女神さま、どうかうちに幸運をおさずけくださいな・・・っと」
そして、意を決して彼女は溝にプレートを押しこんだ。
沈黙が訪れ、二人が思わずため息をついた瞬間・・・。
轟音のようなブザー音と深紅の輝きが突然あたりに響き渡った。
「な、な、な!?」
「なんで! ちゃうの!!」
二人が驚いて叫ぶ。
『警告します、警告します、ただちにこの場から立ち去りなさい』
機械的な音声が彼らに問う。
『立ち去らない場合は強制排除を試みます』
その声と同時に、彼らの背後で魔法陣が輝き、
中から浮かび上がるように深紅のボディとマシンガンを備えたような腕と
まるでチェーンソーのような攻撃的なキャタピラを四つ備えたような巨大なロボットが現れた。
「・・・な、なに・・・アレ」
「ここのガーディアンみたい・・・やね・・・・・・ショウ、頼める?」
「ええっ!! あんなデカイのと!!」
「こっちの謎さえ解けば逃げてくれるはずやから・・・時間稼ぐだけや」
「・・・・・・早くしてよね」
彼女は近くに立てかけてあった大鎌を構え、地を蹴った。
「・・・・・・この世界の異変ねぇ・・・」
不思議そうに呟いたマスターは目の前に立つ人物をしばらく見つめた。
狐色の髪を後ろで一本、大雑把にまとめ、狐の尻尾のアクセサリを3つつけた松葉色の野球帽を
顔の半分が隠れるほど目深に被っている。
薄汚れた軍服のような服に隠れた肉体は均整が取れており、その身長もかなり高い。
「あんた・・・渡り鳥って風には見えないな・・・何者なんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
少し棘のある言い方のマスターの言葉にも無視して、
彼はきつい匂いのする注がれたコップの中身を一気に飲み干した。
「・・・・・・・・・そんなこと、誰も気にはして無いさ・・・」
その様子についに折れたのかぽつり答えるマスター。
「結局のところ・・・オレたちは自分の身の回りのことだけで精一杯なのさ・・・」
カラン・・・と静かな酒場に氷のぶつかる音が響く。
「しかも、機械の体に水銀の血を持つ魔族なんて連中が、うろうろし始めてるし・・・
さらに、活動を停止したとおもっていた「オデッサ」どもも再び動き出したし・・・」
さすがに暇になっていたのか、いつのまにか饒舌になっていくマスター。
「お前は・・・・・・」
しかし、そんな言葉を不意に鼻をひくつかせた青年の言葉が遮った。
「・・・?」
今まで黙りこくっていた青年の急な言葉に不思議そうにマスターは彼の顔を見た。
「・・・・・・・・・・・・人間か?」
カラン、と氷とグラスがぶつかり合う。
「は? な・・・何を言ってるんだ、お客さん・・・からかわないでくださいよ」
「・・・・・・・・・・・・何人食って来た」
「お客さん!!」
さすがに怒ったのか、マスターが机を叩いたその瞬間、。
彼はいきなり電光石火で取り出した大きな鉄の筒をマスターの胸板に押し当てた。
「・・・・・・!!!?」
「やっと・・・・・・掴んだか」
「お・・・お客さん・・・なんの・・・冗談で?」
引きつった顔で両手を上げるマスター。
「・・・・・・カニス・・・・・・見つけた・・・出番だぞ」
「おうっ!!」
彼の声に誰かの声が答えたその瞬間・・・その場を一条の白い光が切り裂いた。
「・・・・・・大丈夫か、おい!」
言いつつ駆け寄ってきたのは真っ黒い外套をを羽織った一見聖職者風な格好の少年
しかし、それにしてはずいぶんとくたびれた感じがする上に、短めのタバコをくわえていた・・・。
「・・・・・・・・・心配ない」
青年もその手に先ほどの鉄の筒・・・巨大なリボルバーキャノンを構え、前を見据えた。
そこにいたのは・・・先ほどの男ではなかった・・・いや、人間ですら・・・無い。
それは、巨大な木であった・・・。
何本もの蔓が束になったように絡み合った不気味な幹を持ち、毒々しい深紅の花を咲かせていた。
その幹の部分には何人かのミイラ化した人間の死体がぶら下がっていた。
『くっ・・・な・・・なぜ・・・バレたっ・・・』
その木が、先ほどの男の声で吠える。
「・・・・・・きつい酒の匂いで誤魔化したつもりのようだが・・・・・・私の鼻は誤魔化せない・・・・・・」
『!!?』
静かな怒りのこもった声が恐怖とは無縁のはずの彼をひるませた。
「へっ、年貢の納め時だぜ!! さっさとくたばりな!!」
その言葉にあわせ、抜き放たれた巨大な銀色の巨大なライフルを構える少年。
『貴様らぁぁぁぁ!!!』
怒り任せの咆哮に、木の幹が音を立てて裂け、開いた無数の牙を持つ口と、
触手のようにのたくる枝と根を振り回し、襲い掛かる。
「はああああああっ!!!」
地面を削りつつ、突進してきたガーディアンの攻撃を跳躍してかわしたショウは
上段に振りかぶった大鎌を勢いに任せて叩きつける。
しかし、嫌な金属音と共に大鎌が弾かれ、跳ね返ってきた反動に顔をしかめる彼女。
「痛っ・・・って言うか、硬ぁ・・・」
しびれる手に息を吐きかけ、悪態をつく彼女・・・。
「ショウ!!」
ラグベルの声が横合いから飛び、それにあわせて突進してくるガーディアン。
「やばっ・・・」
呟きつつ、四肢を総動員して横合いへ飛びのくショウ。
その瞬間、先ほどから走り回っていたツケを払わされたのか、
砕けた瓦礫にキャタピラをとられ、動きを止めるガーディアン。
「正攻法じゃ・・・無理かな? ごめん、ラグ、足止めて!!」
叫びつつ大鎌を頭上で高速回転させる彼女。
「ああ、もう・・・世話がやける!!」
言いつつ、プレートをバックに納め、足元のメカの頭をはたくラグベル。
その一撃にふと、抗議するように一瞬、目のかわりのライトを点滅させて、くるりとその場で回転し、
ラグベルは自分の指先を噛みちぎり、空間に指を走らせた。
「我が血に刻まれし記憶を今、解き放つ・・・。
天と地の精霊達の怒り、一条に集いて閃光の刃とならん!! バスタァ、コレダァァァァァァッ!!!」
両手を突き出し、吠えるラグベルの瞳が深紅に輝き、無数の電光が走り。
さすがにその一撃が効いたのか全身から煙を吹いて、動きが鈍くなるガーディアン。
「さんきゅっ!!」
「礼言う暇あったら、早よ倒しぃや・・・」
微笑むショウに愚痴った後、ラグベルは再び目の前に集中する。
「夜・・・我らの王・・・王をあがめる・・・王は来るべき時に蘇る・・・
王の部分を夜に言い変えると『夜をあがめよ、我らの夜を・・・夜は来るべき時に蘇る・・・』
ノーブルレッドがあがめるモノで、我らにしかないモノで、夜が来る時に蘇るって事だから・・・・・・」
髪をわしゃわしゃと掻き回して思考するラグベル。
「だぁぁぁぁぁぁ!!!? なんやねん、もうっ!!? って・・・もしかして牙ッ!?」
大パニック状態で、プレートを強引に叩き込むラグベル。
しかし、溝にプレートが収まったと思った瞬間、プレートがいきなり砕けた。
「こっ・・・壊れたぁぁぁぁぁ!!!」
「ラグぅぅぅぅぅ!!!」
二人の少女の悲鳴が響き・・・。
「ああ、もう、ヤケクソやぁぁぁぁ!!!」
ついにヤケクソ気味に握ったプレートを叩き込んだ・・・・・・その時だ。
不意に機体の動きが止まった・・・。
「・・・・・・へ?」
不思議そうに呟くショウ。
『証は立てられた・・・・・・汝の入城を許可する』
再び先ほど聞いたような機械的な音声が響き、巨大な扉がゆっくりと開いていく・・・。
「・・・・・・“牛三つ時”で・・・よかったんね」
呆然と壁の溝にはめこまれた「角」のプレートを見つめる彼女。
「さあ、行くわよ!!」
近寄ってきたショウの声に、ラグベルは慌てて目の前を見つめなおした。
今、彼らのいる場所よりもさらに深くまで伸びた暗闇に続く階段とスロープがそこにあった。
その壁や階段はまるで、血を塗りたくったかのようにどす黒い深紅に染められていた。
「これが封印されたノーブルレッドの聖地の入り口・・・『血の道』なんやね・・・
ここの奥にマリアベルがいるって話やけど・・・ほんまかな」
「前で悩んでたら何も出来ないでしょ? 行くだけ行ってみようよ」
呟いたショウが暗闇の先に足を踏み入れようとした・・・その時。
ごん
突然妙に間の抜けた打撃音が響き・・・不意に視線を下におろすラグベル。
「い・・・痛ったぁ・・・」
見ればショウがちょうど部屋と階段の境目あたりの場所で真っ赤になった鼻を涙目で撫でていた。
「あ、言い忘れてた・・・ここ、ノーブルレッドか、ノーブルレッドと一緒にいる者しか入れへんのやった・・・」
「・・・・・・それ、もっと早く言ってよ」
ぽん、と手を打つラグベルに、彼女は鼻を撫でつつ反論した。
『正体を見破ったお礼にお前たちはオレがその手で殺してやる!!』
「ケッ!! お約束すぎるセリフだな!!」
ライフルを乱射し、向かってくる枝を全て破壊するカニス・・・
しかし、そんな彼の襟首を不意に青年は掴み、そのままの状態でいきなり背後に飛びのいた。
「ぐえ・・・」
カエルのようにうめいた彼は、即座に反論しようとして・・・・・・絶句した。
少し前まで彼のいた場所の下から、何本もの槍状の木の枝が突き出していたのだ・・・
気がつかずに乱射していたらおそらく今ごろは・・・
「・・・・・・礼は言わねぇからな」
「別にかまわん・・・・・・来るぞ」
憮然とした声に、そっけなく返した青年は警告を発し、素早く二人は散開し、
それに遅れて彼らの背後から枝がすごいスピードで飛び出す。
『ハハハハハハハハハ!! さっきの勢いはどうした!! オレを倒すんじゃなかったのか!!』
「うぅるせぇぇぇぇ!!!」
咆哮と共にライフルを今度は本体に向けて放ち、それに少し送れて青年もリボルバーキャノンを放つ。
輝きが枝を払い、弾丸が本体らしき巨木に突き刺さり・・・爆発。
「やったか!!」
「・・・・・・いや」
上機嫌で叫ぶカニスに水を差すように冷静に呟く青年。
煙が晴れていく中・・・。
『き・さ・ま・らぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
一部が砕けてはいるものの、まだ元気そうな木は怒りの咆哮を上げた。
しかも、そのうち砕けていたはずの個所が、その破れ目のまま、無数の牙を持つ口となり、
根と枝をメチャクチャに振り回して突撃してくる。
『殺す、殺す、殺スゥゥゥゥゥゥゥ!! 食ッテヤルゥゥゥゥゥ!!!』
「カニス!!」
「チッ、しゃあねぇ!! かわりにコイツでも食ってなッ!!」
咆哮と共に襲い掛かってきた木に反応して懐から取り出した紐のついた二つの缶を取り出し、
くわえタバコでその先に火をつけるなり、新たに出来た口ともう一つのめがけて投げつけた。
缶をくわえた口が・・・その瞬間、轟音を上げて爆発する。
「へっ! どうでぇ! カニス様特製炸裂弾の味は!!」
「まだ・・・浅いな」
上機嫌のカニスに再び再び冷静に釘をさした青年は、腕を組んでうめいた。
「・・・・・・あ、どうした?」
「いや・・・何かおかしいと思ってな・・・・・・」
「おかしい・・・?」
訝しげなカニスは目の前を見つめ・・・そのことに気がついた。
「あ? なんで“燃えて”ないんだ?」
『ったく・・・しょうがねぇなぁ・・・』
「おい! どういう事だよ!!」
突然聞こえた声に訝しげな顔でカニスは胸元を探り・・・銀色のペンダントを出した。
虎の爪のようなマークが刻まれた小さな銀色のプレートがそれにあわせて激しく輝く。
『お前なぁ・・・オレ様と契約しといてわかんねーってことねぇだろ・・・・・・
“風(オレ)”を感じろ! そうすれば、すぐに道は開けるぜ!』
「あ! テメェ!! どうしてそれを早くいわねーーんだよ!!」
『バカヤロウ!! 切羽つまるまで喋るなったったのはテメーだろ!!』
「・・・・・・おい」
いきなり自分のペンダントと格闘しはじめたカニスに思わず引きつった笑みを見せる青年。
その様子があまりに場違いで滑稽だからでは無い・・・“その声”が何だか知っているからだ。
「とりあえず!! 感じればいいんだよな!!」
叫びつつカニスはペンダントを握り・・・瞳を閉じ、
それをチャンスと感じたのか枝が槍のように豪速で飛んできた。
「カニス!!」
青年の警告と共に彼の頭を貫こうとした枝が、彼の足元から吹き荒れた激しい風にそらされる。
「我は風の司・・・」
ばさばさと下から吹き荒れる風に髪を揺らしつつカニスは両腕を突き出す・・・が
今まで流れてた神秘的な雰囲気をいきなり蹴倒すように、吠えた。
「・・・んな風にしてよんでたまっかってんだ!! 来やがれ、フェンガロンッ!!」
『応ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』
指を鳴らしての咆哮に・・・風が答える。
足元から吹き上がった豪風は彼の頭上で一つにまとまり、
真っ白な体に漆黒の縞を持ち、自らの身長と同じくらいの長いエメラルド色の鉤爪をそなえた
巨大なサーベルタイガーがそこに現れた。
「風のガーディアン・・・フェンガロンッ!?」
帽子を抑え、驚愕する青年。
「フェンガロン!! もう、勘弁ならねぇ・・・全部フッ飛ばせ!!」
『応ッ、まかしときなッ!!』
彼の言葉にサーベルタイガーは長い爪をしゃきん、と打ち合わせ、笑みを浮べる。
『今までずぅっと封印されっぱなしだったからな!! ストレス発散に丁度いいぜ!!!』
「ま・・・待てッ!!」
カニスのあまりにも大雑把な指令に青年が待ったをかける前に、
激しい豪風が一瞬にしてあたりの木を巻き込んで荒れ狂った。
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