――戦士達は力を欲し、その手に縛鎖を掴み――


――与えられた答えのない命題に苦悩し、武器を手に取る――


――己の信じる答えをその小さな胸に抱き、静かに歩み出す――


――信ずる者に付き従い、その真価を見定め――


――いつ知れるとも知れない偽りを、常に携えている――


――過去は呪われた甲冑となりて、捕らえて離さない――


――語り手は語る、己の知る事実か、あるいは真実か――


――過去へ風化したその物語を――


BRAVERS STORY
〜交錯する時の欠片達〜


PROLOGUE STORY「EPISODES」


 荒廃した大地に身を寄せるようにして作られた集落は、今や見るも無残な光景になって いた。
幼い子供の喧騒、人々の笑い声はとうに失せ、子供のすすり泣く声だけが静かに響いている。
 やがてその声も摘み取られ、無人となって村は大地の一つとなり消滅する。
 少女はどんどん小さくなっていく故郷を、霞んだ瞳で見つめていた。
 幼き少女には理解しがたい現実であった。
「悲しいか?」
 良く通る声が少女の耳元でした。
人と容姿が似、それでいて全く違う本質を持つその生物は、魔族と呼ばれていた。
少女はその腕に抱かれ、空を羽ばたいている。
「かな…しい?」
 無垢な青の瞳でその横顔を見つめる少女。この世界の元凶といわれる魔族も、幼き少女には 関係のないことであった。
「お前にはまだわからないか。まあいい。すぐにわかるだろう」
 その言葉の通り、両親や村の者達が帰らぬ人となったことを少女が理解するまでそう時間は かからなかった。
だが、少女はそんなことを知る由もない。
「…見えてきたぞ。これからあそこがお前の家だ」
 しばらくして、その魔族が少女に呼びかけた。
 初めて見る大地。果てしなく広がる深緑の森の中心に立つ塔が天を貫いていた。


 崩壊した城塞の中で、一人の男が身を起こした。衣服は所々黒く焼け、切り裂かれ 血が流れるのはもうどうでもよかった。
「…ちくしょう」
 周りの様子と同調した、やりきれない声で呟く。黒く薄汚れた瓦礫にもたれ、天を仰ぐ。
 朦朧とした脳裏に不鮮明な映像がちらつく。やがてそれは鮮明になり、男の意識を弾け起こ した。
 ゆっくりと起き上がり、おぼつかない足取りで歩き始める。
 城門の残骸をくぐり立ち止まる。振り向く男の両眼には、かつての栄光を失った祖国の慣れの 果てが移っていた。
「絶対…絶対『あんた』を止めてやる…」
 はっきりと意志ある声で言い置き、男は再び歩き出した。


 ――ピチャリ、ピチャリ
 灯り一つない漆黒の闇の中、何かが垂れる音がこだまし、一つ、また一つと闇に吸い込まれて いく。
螺旋状の階段を下りる確かな足音だけが存在を保っている。
「ここだな…」
 男は片手に持つランタンを目線まで持ち上げ、目の前の扉を照らした。もう片方の手に握る血 が滴り落ちる剣と、魔族の残骸がぼんやりとシルエットを見せる。
 長年触れられていない封印の施された扉を、意を決して開ける。すると、溢れんばかりの 真っ白な光りが男を襲い、包み込んだ。
「これが、白の紋章か…」
 細めた目をゆっくりと開け、目の前の丁度両手で抱えられるくらいの大きさの、白く輝き 浮かぶ球体を見つめた。
『白の紋章』、この国に代々伝わる強大な魔力を秘めたそれはそう呼ばれていた。
「これで…力が…」
 おそるおそる手を伸ばし男はそれに触れた。
 しかし、次の瞬間男の視界は黒に塗り潰された。


 深緑が広がる森の中で「それ」は目覚めた。木漏れ日が点々と射し込み、「それ」は 煩わしそうに手を顔の前に持ち上げそれを遮る。
「まったく…誰だよ、俺を呼んだのは」
 不平をもらしながら「それ」は立ち上がり、キョロキョロと辺りを見回した。
「いたいた…あいつだな。と、どうやって声をかけるべきかな」
 木の陰に身をひそめ「それ」は真剣に悩んだ表情をする。
 一人の女性が「それ」の漆黒の瞳に映っていた。


 頂上部が雲に隠れるほど巨大な切り立った崖の上の村跡、木で作られた不恰好な 十字架が立ち並び『永い』時の中、静かにその役割を果たしたたずんでいた。
「俺は帰って来たぞ」
 樹齢は一体どれくらいだろうか。巨大な大樹の下に、他の墓標とは離されたところに一つだけ 同じようにして十字架が立っている。
 その前に男はいた。顔の右半分に異質な仮面を被り、鋭い輝きを放つ大鎌を携えて。
「目的を果たしたらまた来る。それまで待っていてくれ」
 必ずあいつをこの手で葬ってやる。そのために俺は力を手にし、死神となったのだ。


――互いのことを知らぬ戦士達が、それぞれ住まう異なる時間の中――


――果てがあるとも知れない道を、決意を宿したその瞳で見据え――


――ひとつ、またひとつと歩みを続ける――


――カチリ、カチリと見えない音をたて――


――静かに、ゆっくりと、それぞれの時間が噛み合ってゆく――


――全ての時間が噛み合った時――


――物語は始まる――





後書き
WA以外で小説書くことになるとは思ってもみなかった今日この頃。ひ魔人です。
長いプロローグですね。本当はもっと長くなりそうでしたが、これ以上長くなるとプロローグか どうか妖しくなるので省略してしまいました。(滝汗)
この物語はキャラの一人一人が主人公です。長い話になると思います。
まだまだ修行不足ですが、どうぞよろしくお願い致します。(座礼)


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