始まりの時が重なり噛み合った時、一つ目の歯車が回り出した時 少女、少年、男は出会いを果たす 彼らはそこにいた 天を貫く果て無き塔に BRAVERS STORY 〜交錯する時の欠片達〜 〜第一話「始まりの時」〜 「ふぅ…」 開口一番に出たものは疲れ切った溜息だった。 溜息の主は、なんの飾り気もない薄汚れた服、いわゆる奴隷の服のようなものを着ている、 8、9歳くらいの少年だ。 壁にもたれながら、伸びた銀の前髪を意味もなくいじくり、黒い瞳で周囲を見渡す。円形の 部屋はかなりの広さでこっちの端から向こうの端まで見えるか見えないかくらいである。高さも 数メートルあり、人の背では到底届かない。上下階に行くための階段が部屋の四隅にあることが、 その広さを証明していた。 また、壁に刻まれた幾つもの線が複雑に絡み合い、不可思議な模様を描いている。また、大人 よりも大きな岩石のような大きさの淡い緑色の宝玉が等間隔に埋め込まれていた。 彼と同じような恰好をした人々が、皆思い思いの形で休息をとっている。どの顔も疲労し 切っている。 「キト、帰ったぞ」 最近覚えた声が少年の耳に飛びこんだ。 「遅いぜガーディア。魔物にでも食われたのかと思ったぜ」 キトと呼ばれた少年のそばに大柄な男が近づいてきていた。恰好は少年と同じく奴隷服、 上半身はサイズが合わないためか、軽く羽織る程度にしか着ておらず引き締まった空だが晒されて いる。額の赤いバンダナが印象的で、赤茶の前髪は二つに分かれて目元まで垂れていた。 ガーディアと呼ばれたその男は、軽く少年――キト――の頭をコツいて、 「縁起でもないこと言うな、バカ」 座りこんでいるキトを、男――ガーディア――が見下ろす形になる。ただでさえ身長が高い 彼を座り込んでいる、それも子供から見るとかなり迫力があるものだろうが、彼の深い緑の双眼も キトは最近になってようやく慣れてきたところだった。 「それから今日はおまけ付きだ。ほら、隠れてないで出てこいよ」 自分の背後を見やるガーディア。そこからおずおずと、小柄な少女が現れた。 年はキトよりも下のようで、怯えた表情が更に少女を幼く見せた。整えれば美しいであろう 金髪は、今は薄汚れており、青い瞳は所在無く泳いでいた。 「…どこで拾ったんだよ…このお人好し」 キトの顔が見る見るうちに不機嫌なものに変わる。 「いや、『狩り』の時にな。魔物に襲われていたもんでな。おかげで今日の飯を逃がしちまった。 アハハハハハ」 「アハハじゃねえ! このボケェッ!」 「おっと」 立ち上がり跳び蹴りをくらわせようとしたキト。だが、ガーディアに軽く避けられ、逆に足を 掴まれてそのまま宙吊り状態になってしまった。 「子供はもう少し可愛げがないといけないな」 「…生憎とそういうもんは持ち合わせていないんでね」 勝ち誇った笑みを見せるガーディアに、キトがそのままの状態で負けじと応戦する。不敵に 笑う二人の間に不穏な空気が漂い始めていた。 「あ…あの…」 おろおろと少女が二人を交互に見る。 「と、悪い悪い。お前のこと忘れるところだった」 「忘れんなよ。ボケる年でもあるまいし」 「お前は少し黙ってろ」 そのままパッと手を離され、キトはそのまま床に背中から落ちた。 「自己紹介といこうか。お前の名前もまだきいてないしな」 ガーディアはその場に座り少女と目線を合わせる。少女も彼に習い座った。 「よっし! ではまずは俺から名乗らせてもらおうか。俺はガーディア・ハルバード。この塔に 来てもうすぐ10年になる。結構古株ってとこだな」 「ちッ、オレはキト・ラグールだ」 明るく笑って見せるガーディアに、ふてくされたように座り続いてキトが名乗る。 「わたしは…マルソー。マルソー・レイル」 「マルソーか。よし、今日からお前も俺達のチームだな」 「何ィ!? ちょっと待てぇ!」 ガーディアの発言にキトがくってかかろうとするが。彼の手に頭を抑えつけられ ねじこめられてしまった。 「いちいち叫ぶな。助けるだけ助けてほっとくのは俺の心情に反するからな。不服か?」 「わかったよ…。だからそんな涼しい笑顔で脅すな」 目が笑っていない笑顔に見下ろされキトは渋々納得させられてしまった。 「あの…どうなってるんですか…その…ここは…」 その横からマルソーがかすれた声がする。 「ん? ああ、そういえばお前いつここに来たんだ?」 ガーディアが向き直りマルソーに訊ねる。 「よく…おぼえていません…」 マルソーが少し目を伏せる。 「外で死にそうな目に遭ってたんだから、ここに来てそう時間は経ってないはずだが…」 「そんなことは別にどっちでもいいだろうが」 キトがバカバカしいと言いたげにその場に寝転がる。 「そうだな…よし。じゃあ少し話をしてやろう。魔族の言われ、そしてここがどこなのか…」 「…おとぎばなしか…オレにも聞かせたやつか?」 ガーディアがキトの方を見て頷き、マルソーを見る。彼女も弱々しく頷いて見せた。それを 見届け彼はゆっくりと口を開いた。 大地に根を下ろした悪しき心は地上を覆い尽くさんばかりの勢いで増え続けた それを嘆いた地上の神は一つの箱に悪しき心を封印した そして地上につかの間の平和が訪れた しかし永い時が経過する中で悪しき心は確実に増え続けていた ついに箱はその重みに耐えることができず壊れてしまった 再び上に悪しき心に覆われようとした 突然の事態にもはや新たな箱は創っている暇はなかった そして神はついに最終手段を実行した 己の半身を封印の柩とし悪しき心を封じたのだ だがそれだけでは悪しき心を全て封印することができなかった 残りの弱った悪しき心は逃げ場を求めた 悪しき心の逃げ場はあらゆる人の心 悪しき心に魅せられたモノを人々はこう呼ぶようになった 『魔族』、と――」 「…とまあ、これが昔から伝わっている魔族の由来だ。他にも魔族は天からの災いだとか、 色々と言われている。まあ、俺はこの話を一番信じているんだけどな」 そう言ってガーディアは肩をすくめて見せた。 「人が…魔族…?」 「そうなりうる存在とでも言うのかな…。少なくとも俺やキトは魔族じゃない。お前だって そうだろ? これは昔話みたいなものさ。深く考えなくても言い。教訓にもなってないが、 それなりにおもしろいと俺は思う」 「ようは迷信、だな」 キトがつまらなそうに呟いた。 「それじゃあ次はここがどこなのか、ということについてだが、その前にこの世界の構造を 教えてやろう。お子様にはちょいと難しいかもしれないがよく聞いておくように」 「はいはい」 冷めた反応にガーディアは横目でキトをじろりと見た後、すぐに表情を戻して話し出した。 「まず、世界には主な大陸が五つあり、それを統治する国家がある。 一つ、北の『ノウティカ大陸』を守護する『インダストリアル王国』 一つ、東の『イースタ大陸』を守護する『マナ帝国』 一つ、南の『サウスタイル大陸』を守護する『エレメンタル王国』 一つ、西の『ウェンブレイス大陸』を守護する『ガート帝国』 そして、四つの大陸に囲まれた中央の『センタリアス大陸』を守護する『ラジェスト』帝国だ」 マルソーは困ったように目を泳がせている。どうやら一気に言われて戸惑っているようだ。 「世界には五つの大陸があって、それを守護する国がある。とでも覚えておけばいい。どうせ みんなもうなくなってしまったんだしな」 「え?」 マルソーが顔を上げる。ガーディアは少し目を伏せて続けた。 「全ての国家は魔族によって滅ぼされた。そして、ここは元ガート帝国領地であるウェンブ レイス大陸中央に建てられた、いや、今も建設途中である塔…」 「監獄塔、『バベル』だ」 最後はキトが付け足した。 それはやがて他の歯車をまきこむ大きな波となる 互いを求め、求められ、何かを欲するかのように 荒れ果てたこの世界で、戦士達は出会って行く 今、確かに一つの歯車が回り始めた――― 〜後書き〜 どうも、1話目。ひ魔人です。 遅筆ですな…、自分でもわかってるんですけどね。しかもいまいちな文章だし…(汗) どうにかやっていきますのでどうか見捨てないで下さい。(土下座) えー、ちなみに前回プロローグに出てきたやつらは、しばらくしないと出て来ないやつもいます。 こいつだろうと推測してみてください。 忘れられない内になるべく早く次回書こうと思いますのでどうかよろしくお願いします。(座礼) |