BRAVERS STORY 〜交錯する時の欠片達〜 〜第十九話「解き放たれた運命連環」〜 「意外に粘るな。だが、それもいつまで持つかな」 悠然と余裕の態度で構えるノスフェラの前に、マインド、レア、ゴラスは一様に焦りを感じていた。目の前にいる魔族は、明らかにこれまで相手にしてきたモノとは格が違う。それが明らかに判るほど、その強さは歴然としたモノだった。 「フォース・フレイム転化!」 マインドがFORMを炎の剣へと変え、その場で振るった。尾を引くように炎は伸び、ノスフェラを取り囲んだ。 「バーニングサラウンド!!」 そして、続けざまに伸びた炎に対し魔力を注ぎ、瞬時に爆発を呼び起こした。並みのモノならば黒焦げであろうが、この魔族に対しては話が別だった。 「その程度か! 無力な!!」 ノスフェラが嘶き暴風を巻き起こすと、炎は跡形もなく四散した。全く攻撃の影響を受けておらず、無傷だった。 「やはり無理か……」 「奴を守るように、周囲に風が吹いているみたいっすね。全て、奴に届く前に軌道を反らされてしまうか、かき消される」 ゴラスが指摘した通り、ノスフェラの周囲には常に暴風に近い風が吹き荒れていた。それがノスフェラを守る絶対の鎧となっていることに間違いはなさそうだった。 「ってことは、直接ブン殴るしかないわけね」 「発想は正しい。だが、下手に近付けば風に吹き飛ばされるか切り刻まれるのがオチだ。慎重にいかなくてはならない」 「風は奴の魔力によって生じているはずっす。奴の意識を、風を創ることに集中できないくらい余裕のない状況に追い込めば、致命傷を与えるチャンスになるはずっすよ」 ゴラスは意味ありげな視線をスパイルに向けた。彼の視線にスパイルは気付いたが、顔を背けた。 「オマエがワイに何を期待しとるか知らんが、手助けはせえへんぞ。あれくらいの敵やったら、知恵を搾れば勝てるはずや。いい成長の機会と思って勝ってこい」 「手助けって、出来るならしてくれても良いんじゃないの?」 「他人の力に頼るようなヒヨッコに力を貸すほど、ワイはお人好しやない」 「なにぃ! これは他力本願じゃなくて仲間として協力を求めているんでしょうが! それとも、自信がないから力を出し惜しみしてるの!?」 「よすんだ。スパイルの力は本物だ。ただ、キミの精霊魔導と同様、迂闊に使える力でもないんだ」 「そうなんですか? でも、それだけ凄そうな力なら、少しくらい……」 マインドに忠告され、不満げに口を尖らせるレア。スパイルは目を伏せ、嘆かわしげに溜息をつく。 「安心せい。オマエらがホンマにヤバイ状況やと判断したら助けてやる。ま、限界搾り出してやれば勝てる相手やから、しっかりしとけばワイの出る幕はないやろうがな」 「勝機への活路を見出すことができればの話っすね。お前に勝機は見えているっすか?」 「そうやな。なら、一つだけ言っとく。鎧が壊せんのやったら、内側から攻めたらどうや?」 「内側か……なるほど、確かに限界に挑戦するしかなさそうだな」 「マインドさん、何か思い付いたんですか?」 スパイルの言葉に得心したように言うマインドに、レアが怪訝に訊ねる。彼女の問いに、彼は神妙な面持ちで頷いた。 「ああ、やって見る価値はある。ここは一時、私に任せてくれ……フォース・ウィング転化!」 FORMが旋風を巻き起こし、風の形状へと変化する。マインドはそれを振るい、ノスフェラへ向かった。 「その風、利用させてもらう。ウィング・ブースト!」 マインドは魔力を瞬間的に爆発させ、風で自らを押し流してノスフェラの旋風の中へと突っ込んでいった。彼の身体を凄まじい風圧が襲い、自由を奪う。 「力を持たぬ者が我が風の渦中に飛び込むか! だが、それだけで我には至らんぞ!!」 「動けなくとも、攻撃する手段はあるさ。フォース・プラズマ転化ッ!!」 雷轟と共にフォースが閃光の煌きを放つ。マインドはそれに魔力を集中し、一気に拡散させた。 「スプレッドヴォルト!!」 雷の光球がばら撒かれ、風の中で踊る。彼の魔力を帯びたそれは、かき消されることなく存在し続けていた。 「――!? 何をする気かは知らんが、風が我を守る以上、攻撃は皆無だぞ!!」 「どうかな? この雷球は直接お前には届かないだろうが、それは問題ではない……これは雷の檻だ。捕らえたぞ!!」 「何!?」 「焼け焦げろ! サンダープリズン!!」 雷球の一つ一つが一筋の電撃で結ばれ、一つの檻と化す。拡散されたかに見えた雷球は檻の結界を作るための柱であり、それはFORMへと繋がっていた。 「グオオオオアアアアアッ!!」 マインドがFORMを通して魔力を注ぎ込むと、雷球が放電してノスフェラに雷が襲い掛かった。そこから逃れる術はなく、見る間に彼からは余裕がなくなっていった。 「グゥ……!! なめるな!!!」 ノスフェラは一度風を止めたあと、一気に爆発させるように風を再度発動させた。その勢いに雷の檻は消し飛ばされたが、ノスフェラの消耗は激しく、息が上がり風は止んでいた。 「人間が……奴はどこだ?」 「ここだ」 風に吹き飛ばされたか、マインドの姿はノスフェラの前から消えていた。が、すぐに彼の答える声が聞こえてくる。空を仰ぐと、降下してくる彼の姿が視線の先にあった。 FROMの形状が風となっている。ノスフェラが風を発動させた瞬間、風に転化させて上空へ逃れたのだ。 「フォース・マキシマム!!」 マインドはFORMへ有りっ丈の魔力を注ぎ込む。FORMの光は肥大化し、巨大な剣へと転化された。 「終わらせる! バーストブレイク!!」 風がなくなった今、マインドの進行を遮るモノは何もない。降下の勢いと合わせて振るわれた彼の魔力の大剣はノスフェラを一閃し、その軌道を爆発させて更に致命傷を与えた。 「ヌゥ……ガアアアッ!! 人間如きに……我が力が遅れをとったというのか!!」 炎上する肉体を振り乱し、ノスフェラは苦悶の声を上げた。 「く……! まだ動けるのか」 マインドは方膝をつき、ノスフェラの生命力に苦い表情を隠さなかった。全魔力を懸けた攻撃であったために、彼に余力はほとんど残されていない。 「マインドさん、下がってください! 後は、あたしが戦います!」 その様子を見兼ねたレアが、彼を庇うように前に立ち、ノスフェラを睨んだ。が、マインドは気力を振り絞って立ち上がり、彼女の肩を掴んで横に押しやった。 「いや、キミの力は、安易に使うべきモノではない」 「そんなこと言ってる場合ですか!」 「精霊に関することだけではない。キミの身体にも負担がかかる」 「それは覚悟の上ですよ! マインドさん、年を取って少し硬くなったんじゃないですか!?」 「まあまあ、二人とも痴話喧嘩みたいな言い争いはその辺にして」 必至に訴えるレアと冷静なまでにそれを否定するマインド。その時、ゴラスが二人の間に割って入った。 「二人の主張が噛み合わない以上、言い争っても時間の無駄っすよ。僕が行こう」 「あんたが!?」 「なんっすか、その驚き方? そろそろは目立っておかないと、僕の立つ瀬がなくなりそうなんでね。マインドさん、幕引きは任せてもらうっすよ」 「……大丈夫なのか?」 「ま、なんとかなるっしょ」 マインドの問いに苦笑気味に口を笑わせると、ゴラスはノスフェラへ向かってゆっくりと歩き始めた。 「人間が図に乗るなよ!! 我を……『聖杯』の力を舐めるな!!!」 激昂と同時にノスフェラが暴風を起こし、身体に燃え上がる炎を一気に掻き消す。ゴラスはそれを正面から受けながらも立ち続け、口を歪めた。 「さて、図に乗っているのはどっちっすかね?」 風が止んだ瞬間、ゴラスは全力で大地を蹴ってノスフェラとの距離を一気に縮めた。ノスフェらの足元に辿り付くと、彼は跳躍して駆け上がるように移動し、彼の背に立つ。 「うーん、中々いい眺めっすね」 「キサマ……!! 我の周りに無防備に近付くとは愚か!! 風に切り刻まれろ!!」 ノスフェらが翼を広げて嘶く。すぐさま嵐のような暴風が巻き起こってゴラスを切り刻む、はずだった。しかし、ノスフェラの風は発動せず、彼の声だけが空に響くだけだった。 「さあて、お得意の風はどうしたっすか?」 静寂の中、ゴラスが彼だけに聞こえるような小声で囁きかける。その声を聞いた瞬間、ノスフェラの全身に凍てつくような悪寒が走った。 「……!!」 「どうした? 声もでないっすか?」 ゴラスの問い掛けにノスフェラは答えなかった。否、答えることができなかった。口は開けど、まるで奪われたかのように言葉が出てこなかった。彼は畏れの感情が宿った瞳で振り返り、ゴラスを凝視した。 「お前の得た力なんて、大したモノじゃないっすよ。『聖杯』っていうのは、もっと恐ろしく、暗くて深い。こんな風にね」 ゴラスの黒い瞳が更に深く、濃密に輝く。 「全部僕の中に沈めてやるよ。黒の底へ、ね」 「――!!」 その瞳を見たと同時に、ノスフェラの魂は奪われていた。 ドゥ―ムの、巨木の根のような爪が振るわれる度に大地を抉り取っていく。ラクルスは無駄のない動きで素早く攻撃を交わし、隙を窺いつつ防戦に徹していた。 「お兄ちゃん!」 「お前は下がっていろ!」 彼に投げ出されたまま立ち上がることができず、身を乗り出して叫ぶリールに、ラクルスは厳しい口調で彼女を叱咤して近づけようとはしなかった。その一瞬の隙さえも見逃さず、ドゥームの攻撃は繰り出され、彼を襲う。 「ちっ! 雑魚が図に乗ったモノだな」 「強がりもここまでくれば立派なモノだな! 手も足もでないか!? この力はギアト様に頂いたのだよ! 『聖杯』の力をッ! キサマなんぞ、この力を持ってすれば一砕きだッ!!」 「ふん」 空を切り裂く爪が唸りを上げて大地を砕く。ラクルスはそれを避ける瞬間、同時に大鎌を振るい、ドゥームの腕を切り裂いた。 「一砕きか。当たればそうなるかもしれんな」 「ぐぅ……!! 舐めるな!!」 一瞬痛みに顔を歪めるが、ドゥームは大地を震撼させるかのような咆哮を天へと発した。それに呼応するように、戦いを遠巻きにしていた魔族たちが動きを見せる。 「オマエたち! オレの援護をしろ! 娘を狙え!!」 脅すような声に突き動かされ、魔族たちは一斉にドゥームの命令に従い、標的をリールへと定めた。そうすれば、彼女を守らなければならなくなる分、ラクルスが不利になるという算段なのだろう。 が、それに動じるラクルスではない。彼は即座に魔族の動きに対応し、リールを守る態勢に入った。 「お兄ちゃん……」 「怖いのなら、しばらく目を瞑っていろ。じきに終わる」 不安げにこちらを見上げるリールに、ラクルスは僅かだが口調を和らげて言った。信頼できる強い声に、リールの胸に安堵が生まれる。 「守り切れるか!? これだけの魔族とオレから」 四方から襲い来る魔族の群れとドゥームを見据え、ラクルスは大鎌を構える。リールは彼の言った通り、目をきつく瞑り事が過ぎ去るのを待った。 「『聖杯』か……くだらんな。所詮は弱者に過ぎん」 「ほざけ!!」 ドゥームの爪がラクルスへと伸び、同時に魔族の一斉攻撃が仕掛けられる。いかに素早く動き、力が強かろうとも、この状況を凌ぎきることはできない。ドゥームは勝利を確信していた。 が、次の瞬間、彼の目に映ったラクルスの姿には、傷一つ付いていなかった。その代わりに、攻撃を仕掛けた前足の感覚がなく、意識しても動かすことができないことに気が付いた。彼の前足はなかった。 「――な!? なんだ、と……!?」 一体何が起こったというのだろう。ラクルスは愚か、リールも無傷で無事だった。彼女を真っ先に襲った群れの先頭の魔族たちは消え、残った魔族は怯えたようにその場で硬直していた。 「オマエたち!! 何をしている!! オレの指示がきけないのか!!」 ラクルスから放たれる言い知れぬプレッシャーに、ドゥームは恐ろしい感情を抱き始めていた。呑み込まれてしまいそうなまでの殺気が彼の回りから広がり、こちらまで侵食してくるようだった。 「雑魚は群れているのがお似合いだな。後悔しろ、そして死ね」 その瞬間、視界からラクルスの姿が消えた。そして、彼を取り巻いていた魔族たちの悲鳴のような咆哮が起こった。瞬く間もなく引き起こされる断末魔の声に、ドゥームは呆然とその光景を見ることしかできなかった。 黒い翼。 ラクルスの背には、翼が生えていた。一見して天使のようだが、彼の翼は黒い。不吉で死を思わせる、黒い翼。 彼の双翼が宙で踊る度に銀色の鎌が鮮血の光を帯び、魔族は屍を積み重ねてゆき、羽が舞い散る。一瞬、その刹那の出来事を、視覚も知覚も捉えることはできなかった。 「……その翼、人間のモノじゃない!! まさか、キサマも『聖杯』をッ!?」 「黙れ。お前に語る必要はない」 戦慄くドゥームに、ラクルスは冷徹な声を返す。 黒き翼に血の大鎌。その姿は、まさに死神と呼ぶにふさわしいモノだった。鋭利に研ぎ澄まされた殺気は、他を圧倒していてことごとく斬り伏せてゆく。 「ぬう……!! だが、『聖杯』を持つのはオレとて同じ!! キサマに遅れを取るはずがないッ!!」 「ふん、『聖杯』を持とうが持つまいが、勝敗を決するのはそんな条件ではない。純粋な力だ!」 次の瞬間、ラクルスの振るう大鎌はドゥームの肉体を両断し、更に斬り口を発火させる。 「消えろ。二度と再生できないようにな」 「オ……オォォ……」 声を上げる間もなくドゥームの肉体は崩れ落ち、漆黒の羽が舞い落ちる炎に焼かれて消えた。 「……終わったぞ」 ラクルスに促され、リールは恐る恐る目を開けた。そして、目の前に立つラクルスの見慣れぬ姿に驚いた表情を見せた。 「お兄ちゃん……なの?」 「そうだ……お前には、この姿は見せたことがなかったな。立てるか?」 ラクルスは呆然と見上げるリールの手を握り、立たせようとした。が、彼の手の中でリールの小さな手が逃れようと、微かに引かれた感触に彼は気付く。 「あ……っ」 リールは一瞬、自分が何をしたのか判らず、そして、すぐに後悔した。 「お兄……ちゃん」 「気にするな」 ラクルスは無感情に握った手を放し、背を向けて一言そう言った。 「ご、ごめんなさい、アタシ、そんなつもりじゃ……」 そう言った彼の瞳には、微かだが憂いを含んだ寂しさがあった。そして、リールはそれを敏感に感じていた。 「気にするなと言っている。一人で立てるだろう。早くしないと新手が来るぞ」 震える声で謝ろうとするリールに、ラクルスは振り返ることなく言った。それが引鉄になったのか、リールの瞳からは涙が零れて両頬を伝った。 「待って! 嫌いになっちゃやだぁ!」 ついに泣き出したリールに、ラクルスは落胆したように肩を落とした。諦めたように振り返り、かがんで視線を合わせると、彼は彼女の頭を軽く撫でた。 「泣くな。嫌いにはならない。だから、泣くのはやめろ」 そう言って彼はリールを肩に持ち上げ、小さな背中を抱いた。 「うん……お兄ちゃんは、お兄ちゃんよね……でも、この羽は変な感じがするわ……」 溜まっていた涙を拭い、リールは身体を寄せて、彼の首に腕を回した。 「これは特別だからな。お前には、より違和感があるんだろう」 「こういうのって、天使って言うの?」 「天使か。少なくとも、俺は人間でありたいがな……ん?」 不意にラクルスは言葉を切り、バベルを仰いだ。認識するよりも早く、感覚が何かを捕らえて行動を起こしていた。 「お兄ちゃん?」 「リール、しっかり掴まっていろ」 彼は翼を広げ、リールを抱いたまま身体を浮かび上がらせた。 「バベルの頂上へ向かう。付いて来られるか?」 「……わからないわ。でも、頑張る」 「上出来だ」 彼女の返答を聞き、ラクルスの双翼が大きく羽ばたく。この感覚の訴えが正しければ間違いない。彼は、バベルでギアトが行おうとしていることを確信に近いまでに理解していた。 「ちっ……くしょう、俺じゃ、まだ至らないっていうのかよ!」 戦闘が始まってから微動だにせず、涼しい表情のまま、ギアトはその場から一歩も動くことはなかった。ガーディアの攻撃は全てギアトの大剣ブラストによって弾かれ、その効果を失っていた。 「それを理解しながらも、なお『ブラスト』の風に命を散らすか……愚かな」 「理解していても、退けない理由はあるのだよ」 ギアトの眼前に突風の如き勢いでシンが現れ、爪を突き出す。ギアトはそれをブラストで受けるが、その威力に態勢を僅かに崩した。 「行け、キト!!」 「おう!」 「――!?」 ギアトに追撃を加えることなくシンは高く飛び上がった。そして、彼の声に応えキトが彼の背から飛び降り、ギアトへ大剣を振り下ろす。シンの気配に隠れたキトの思わぬ不意打ちに、ギアトの対応は遅れた。 「くらいやがれ!!」 盾代わりにしたブラストを、キトは降下の勢いと大剣の重量で捻じ伏せるように床へ叩きつけた。 「行くよ!!」 ギアトのガードが下がったところで、マルソーの双剣が舞った。彼女のスピードはシンほどではないが、キトの攻撃によって隙の出来たギアトに付け入るには充分なモノだった。 「ぬぅ!!」 しかし彼女の攻撃には重みはなく、ギアトには掠り傷程度のモノしか与えられなかった。ギアトはブラストを振るいキトを退け、彼女を振り返ろうとした。 「おっと、余所見してる場合じゃないぜ!」 ギアとの視線が外れた瞬間を見逃さず、そこへガーディアが迫る。闘気を纏った彼の拳がギアトの腹部へ突き刺さった。 「行くぜ……銃弾(バレット)!!」 彼の拳は当たっただけでは終わらず、闘気が弾丸のように放射され、ギアトに第二の衝撃を与える。ギアトもこれには耐え切ることができず、身体が曲がり、上体が僅かに下がった。 「オラァッ!!」 それを逃さず、ガーディアの拳がギアトの顔面を捉えた。爆音のような鈍い音を立て、ギアトの身体は宙に浮いた。 「まだ行くぜ!!」 ギアトが床に着地すると同時に、ガーディアが更に大振りの拳を繰り出した。 「小賢しい……唸れ! ブラスト!!」 ブラストでガーディアの拳を受け止め、ギアトが叫ぶ。すると、ブラストから渦巻く突風が巻き起こり、ガーディアを吹き飛ばした。 「があ!!」 突風に飲まれ、身体が捻じ切れそうな負荷が圧し掛かる。まるで紙くずのようにガーディアは床を転げていった。 「くそが……だが、追い込んだぜ」 「何?」 ガーディアの言葉にギアトが不審に思った時、彼の足元が赤く輝く。それは次第に膨張するように熱くなり、臨界点に達した時、赤い閃光が迸った。 「焼かれろ!」 シンの言葉に呼応し、大気を焼き尽くす轟音と共に火柱がギアトを飲み込む。ガーディアの攻撃によって、彼はシンが予め張り巡らした魔力の中にいたのだった。 「やったのか!?」 「いや、まともに食らわせていれば、或いはと思ったが……」 やがて火柱が消え、ギアトの姿が現れる。彼の身体には多少の火傷が見られたが、致命傷となるダメージは与えられていなかった。 「……雑兵かと思えば、中々手強いな」 ギアトはブラストを構え直し、油断のない声で言った。 「しかし、これ以上お前たちに構っている時間はない」 今の彼に死角はなく、付け入る隙が見当たらない。静かだが威圧的な風が、ブラストよりそよぐ。 「どうするんだよ。もう奇襲は使えないだろ」 「でも、やるしかないよ。ここまで来て、引き下がってなんていられない!」 「そうだとも。やるっきゃねえのさ!」 「ただの猛進だけは止めておいた方が無難だが……来るぞ!!」 ギアトの放つ気配が急激に膨れ、ブラストの巻き起こす風と共に吹き荒れる。今までとは桁違いの力に、吹き飛ばされないようにするのが精一杯だった。 「異界への顎が開く。間もなく絶望が世界を支配するだろう」 ギアトがブラストを振り上げ、床に突き立てた。すると、床に光が発生し、這うように紋様を描いていった。 「な、なんだ!?」 「これは魔法陣……そうか、バベルの魔石は、この魔法陣を発動させるための出力装置というわけか!」 「何が起こるっていうの!?」 「判らん。だが、止める以外あるまい!」 マルソーの問いに短く答えたシンは、ギアトへ向かって突進した。が、ブラストの風に勢いを殺され、逆に押し流されてギアトには近づけなかった。 「ブラストに共鳴し、集え! 邪神の力に導かれ、送還されよ!!」 ブラストを中心に光が再び放射する。床から光が逆流するように天に吹き上がり、視界が白く覆われた。 空間ごと吹き飛ばされるような衝撃と浮遊感。現実であって夢のような、自分の身体が確かにあるのに、それが本物かどうか不明瞭な感覚だった。光が消え始め、視界が現実を捉えるにつれてその感覚は薄れ、地に足が付いていることに気付く。 「う……いったい、何が起こったんだよ?」 「俺たちの身には影響はないみたいだが、いやに周りが騒々しくなってきたみたいだぜ」 黒い威圧感が周囲より迫りつつある。シンは無言でそれに負けぬ威圧を返し、ギアトを睨んでいた。 「キト、マルソー、臆するなよ」 「え?」 ――ビシィッ!!! バベルの頂上周囲の空間に亀裂が走る。それはガラスを砕くかのように、いとも容易く広がり、崩れ落ちた。中からは様々な色がぐちゃぐちゃに混ざったような不鮮明な空間が除き、そこから渦巻く瘴気が魔族を生み出していた。 「瘴気が暴走している。これは……」 「計画に介入する不安要素は排除する。死して、お前も父の下へ還れ」 ギアトがブラストを引き抜き、頭上に掲げる。それを合図に、堰を切ったようにひび割れた空間から魔族が溢れ出してきた。 「私の周りに集まれ!」 まるで雪崩のように押し寄せる魔族を前に、シンが叫ぶ。 「近づけはさせん!」 シンの周囲で火花が散り、炎の壁が広がる。彼に近付こうとした魔族たちは全て焼き尽くされ、その中に干渉することは敵わなかった。 しかし、時間が経つにつれて炎の勢いは衰え始める。炎を展開するには魔力が必要で、それを維持するためには相応の量が必要になる。加えてシンはバベルを登るためと、ギアトとの戦いの中で消耗している。今の状況でもかなり苦しいはずだ。 「抗うことは無意味だ。風に裂かれろ」 そして、炎の勢いが僅かに緩む一瞬をつき、ギアトは動いた。ブラストより生じる真空波が大気を切り裂き、駆け抜ける。まるで猛獣の唸り声のような轟音を発するそれは、シンの炎の壁を両断し、そのまま空へと突き抜けていった。 「シン!!!」 「無事か……く!!」 仲間を庇ったシンが、力無く倒れる。彼の身体の下から夥しい血が水溜りのように広がっていた。真空波によって、彼の腹部には大きな傷口が出来ている。 「テメエ!!」 「よせ! キト!!」 それを見たキトが激昂し、ギアトへ猛進する。ガーディアの制止の声も彼は聞く耳を持たず、大剣を大きく振るった。 「散れ」 しかし、彼が近付く前にギアトはブラストを正面に構え、低く言葉を発した。すると、ブラストから突風が起き、キトに激しく吹きつける。キトの身体は突風の一部となったかのような勢いで吹き飛んでいた。 「キト!!」 咄嗟にマルソーはキトの手を掴んで止めようとしたが、勢いは殺せず、彼女もキトと一緒に吹き飛ばされた。 そして、二人は不意に浮遊感を覚えた。最初は何が起こっているのか理解できなかったが、すぐに自分たちの下に足を立てる場所がないことが判った。 「う……そ……」 マルソーは眼下に広がる世界に、感情が固まったように目を見開いていた。次の瞬間、二人は声にならない声を上げ、雲の中へと落下していった。 「キト!! マルソー!! 冗談だろ……おい!!!」 「どけ……ガーディア!」 二人が落ちていった場所から身を乗り出して叫ぶガーディアに、掠れたシンの声がかけられた。ガーディアが振り返ると、シンは血を流しながら立ち上がっていた。彼は背に翼を展開させている。 「追うつもりか? その怪我で無茶をするな!」 「だが! 助けにいかなければならないだろう!!」 一瞬シンの気迫にガーディアは少なからず動揺した。が、すぐに彼はシンの目を見返し、毅然とした態度をとった。 「感情的になるなんてらしくないぞ。俺だって助けたいが、どうにもならねえだろうがよ……」 「そう簡単に諦められるほど、あの子らは私にとって安い存在ではないのだ!!」 「俺だってそうだ。あいつらも、お前も、俺にとって安くはない。だから、俺は今、手の届く範囲にあるモノを守る。あいつらだって、今日までしぶとく生きてきたんだ。簡単にくたばってたまるかよ」 「だが!」 「それに、そう簡単には行けないみたいだぜ。少なくとも、そんな身体で掻い潜れるほど、状況は面白いモンじゃない」 反論しようとするシンの言葉を遮り、ガーディアはシンを庇うように彼の前に立った。ギアトが生み出した魔族たちが、二人を取り囲み、きっかけさえ与えれば一気に襲いかかってこれる距離まで迫っていた。 「この場からは、私が逃がさんぞ」 「そうかい。こっちは、逃げる気なんざないぜ。あんたを倒すまではな!」 障害は打ち砕くまで。眼光鋭くガーディアは威嚇するように闘気を発散させ、握り締めた拳を突き出した。 「怯むな。いけ」 彼の闘気に気圧されたか、僅かに動きの止まった魔族たちにギアトがブラストを振るい命令を下した。ギアトの威圧はガーディアよりも優り、魔族たちは突き動かされるようにガーディアとシンへ襲い掛かる。 「負けるかよ!」 どう見ても一人では荷が勝ち過ぎる数にも関わらず、ガーディアは魔族たちに立ち向かった。 「ハアアッ!!」 第一撃にエネルギー波のように闘気を放射して正面の魔族たちを一気に捻じ伏せる。残りの魔族たちの攻撃を硬質化させた闘気でガードし、更にガードを解く勢いで魔族たちを僅かに跳ね除け、その隙を狙って更に闘気を放射する。 一見ガーディアが優勢に見えたが、すぐに彼の息は上がり始めた。ギアトと戦っていた上、闘気の放射は大容量の闘気を消費する上、放った闘気は具象化するモノとは異なり自身に還元することはできない。 「く……ギアトオオォッ!!!」 限界まで闘気を振り絞り、ガーディアは魔族たちを退け続ける。激昂する彼に、無表情のままギアトは見返した。 「そうまでして抗って、何を為そうというのだ。もういい、散れ」 ブラストより風の刃が生み出され、ガーディアに向けて放たれた。その軌道上にいる魔族もろとも消し飛ばしながら迫るそれから、闘気を使い果たしたガーディアに身を守る術はなかった。 しかし、彼に風の刃の一撃があたる事はなかった。目の前に現れた黒い翼が視界を覆い、刹那、魔族たちは大鎌の一閃に両断されて瘴気となって消え去ってゆく。 「お前は!?」 突如現れた救援にガーディアは目を見開いた。翼が舞うたびに巻き起こる光景は、まさに圧巻であった。 「失せろ。デリートッ!」 ラクルス・バルス、通称『死神』。彼の登場から数分も経たない内に、周囲を覆うようにはこびっていた魔族たちは全て消えていた。 「一足遅かったか」 「ラク……ルスか……」 「シン!!」 ラクルスの肩から降りたリールは、血の中に横たわるシンを見て蒼ざめた顔をして彼に駆け寄った。瀕死の重傷を負っているのは、その様子から明らかに判る。ラクルスは今にも泣き出しそうなリールを宥めるように、ラクルスは彼女の肩に手を置いた。 「泣くのは後にしろ」 「だって、だってぇ」 「シンを助けられるのは、お前しかいないんだぞ」 力強い言葉と背中に後押しされ、涙を堪えながらリールは小さく頷いた。彼は回復魔法を使えないが、精霊なら或いはと考えた上でのことだった。 「お前がギアトだな……呼ぶつもりか。『原初の意志』たちを」 シンはリールに任せ、ラクルスはギアトへ向き直る。彼の言葉に、ギアトの表情に僅かな変化があった。 「……間もなくだ。時は、満ちた」 ラクルスの問いに、ギアトはひび割れた空間を見据えた。 すると、そこから魔族が生まれる前兆のような黒い気配が発生する。 見ているだけでどうにかなってしまいそうな嫌悪感、禍々しい瘴気が収束していく。 やがて、それは一個の肉体を形成し、殺気に満ちた魂の鼓動を打った。 「ハアッハハハハハ!!! ようやくお目覚めってか!!? 待ちくたびれたぜ!!」 瘴気より生まれ出た魔族の高笑いが木霊する。自然と流れ出ているのだろうか、その魔族からは、しっかりと心を保たなければ気圧されてしまいそうな威圧感で溢れていた。それはノスフェラやドゥームよりも遥かに強い、ギアトと同質、いや、下手をすればそれ以上かもしれないと思うほど強いモノだった。 「さて……と。テメエだよな。ギアトって。【忠誠】の意志を継いだ、俺様たちの同胞は」 鮮やかな黄緑色の髪と、両耳の上部から伸びる湾曲した角。楽しげに笑わせた口とは対照的に、殺意を漲らせた金色の瞳が彼を尋常でないモノと認識させる。 「お前は?」 その問いに、その魔族は得意げに顎を持ち上げ、ギアトを見下ろしながら口を開いた。 「俺様の意志は【殺戮】、名はデズルート様だぜ。さぁて、手始めにここにいる奴ら、まとめてブッ潰してやろうか!」 落下するキトとマルソーは、離れないように互いの手だけは放さないように握っていた。いったいどこまで落ちて行くのだろうか。まだ地上は見えずにいた。 こんなところで終わるのかよ。オレたち……。 「クソ……!! ちくしょおおおおおおお!!!」 落下の速度と、あまりの事態に言葉が上手く出せず、キトはただ叫ぶことしかできなかった。このままでは、間違いなく地上に落ちたときには命はない。かといって空を飛ばないでもしない限り、この状況から抜け出すことはできそうにもない。 どうすればいいの!? こんなところで終わりたくないよ!! マルソーは祈るように思い、キトの手を強く握った。奇跡、そんな言葉が頭をよぎるが、そんな都合の良いことが起こりうるはずもない。 でも、それでも縋らずにはいられなかった。なんでもいい! 助かりたい……!! 「――!?」 その時、マルソーは自分の身体に違和感を覚えた。身体の内側から暖かなモノで満たされていくような感覚。魔術を使うため、魔力を体内に蓄積する時に近い感じだった。しかし、それとはまた違う。 この感じ、確か、前にもあった。 あの時は、魔法都市国家マナの跡地の廃城だった。アルトという名の少年を助けるため魔獣と戦い、負けたくないという強い想い。そして、そこから意識が途切れていたのだ。 ――せっかく逢えたのに、まだ何にも話してないのに、終われるはずないよ!! 身体が熱い。 張り裂けそうなほど迸っていく。 光が、溢れる。 「う……あああああ!!」 二人は輝く光の奔流に呑まれていた。果たして、これが奇跡というのだろうか。 「あんた、いったい何をしたの?」 レアは、訝しげにゴラスに訊ねていた。彼が攻めに転じ、瞬く間に瘴気へと還元されて消滅したノスフェラを目にした彼女の心は疑心に満ちていた。 「さあ、僕にもさっぱり。きっと、マインドさんの攻撃で瀕死だったけど、頑張ってたってとこじゃないっすかね。で、力尽きて倒れたと」 「そんなんで納得できるか! まさか……あんたもそこで偉そうにしてる精霊みたいに変な力を持ってるんじゃないでしょうね?」 「変とはなんや」 スパイルの反抗の言葉を聞かず、レアはゴラスに強い調子で問い詰めようとしていた。 マインドの本気といい、精霊魔導という切り札を封じられた今、自分が酷く小さく思えて歯痒かった。それに加えてゴラスも何か不可思議な力を持っているらしい。一人だけ置いてきぼりにされたようで、心が焦っていた。 「……今は、言えないな。いずれ、話す機会もあるかもしれない」 「え?」 「なんてね。僕にそんな大それた力はないっす。そんなことよりも、そろそろ引き上げた方が無難じゃないっすか? マインドさんも消耗しているし、これ以上戦っていたら辛くなるばかりっす」 不意に真剣な表情で言うゴラスに、レアの気持ちに一瞬躊躇いが生まれた。すぐに普段の軽い口調に戻り、からかわれたことに気付いたが、もはや文句も言う気は削がれていた。 「そうやな。また魔族が来る前に離れた方がええ。後は、ラクルスがなんとかするやろう」 「そうね……あたしの活躍はなかったけれど、まいいわ」 ゴラスの意見に全員が賛同し、その場から離れようとした。ノスフェラが倒されたことで、魔族たちは蜘蛛の子を散らしたようにその場から遠ざかっていったため、今しか機はないだろう。 が、それを遮るように、突如地震が起こった。予想しなかった出来事に完全に足を取られ、雪崩れるように三人は倒れた。 「何事!?」 「ただの地震やない……なんやこの感じは……」 スパイルはただ事ではないといった形相で呟いていた。身体の芯から震えるような感覚は、畏怖だった。本能がこの地震の源を畏れている。 「負の集合? けれど……並じゃない。――う!!」 「ゴラス!?」 突然、額を抑えて苦しげにうめくゴラスに、レアが振り返った。 「この感覚は……イアルト……なのか……僕を呼ぶのは」 聞こえないような小さな声でゴラスは呟く。彼は感じていた。自分の中にある力が、呼応していることを。 「……どうやら、簡単には帰れそうにないな」 マインドは立ち上がり、FORMの柄に手をかけようとした。上空より無数の黒い影が降り注ぐようにこちらに向かっている光景が見える。おそらく地震の影響なのだろう。それは、新手の魔族たちの姿だった。 「そんな!? せっかく倒したのに!」 レアが驚愕に目を見開いて叫んだ。この数では一人では愚か、精霊魔導を使ったとしても、一度に仕留められる範囲を超えている。 「く……こんな時に、不甲斐ないっすね……」 ゴラスは変わらず苦しげに表情を歪めている。一時的なモノでも、彼の回復を待って戦うほど時間に余裕はなさそうだった。 「チッ! しかたないヤツらや! マインド!! ワイを解放しろッ!!」 「――!? しかし」 甚だ不本意ではあるが、仕方なくスパイルはマインドに指示を出した。マインドは躊躇するように言いスパイルを見るが、有無を言わさぬ眼光を放つ瞳に睨み返された。 「力の制御はワイがする!! 命がなくなるよりマシやろうが!!」 「……わかった」 どうしようもない状況と判断した上での指示である。マインドもそれを察していないわけではないが、了承の返事も乗り気ではないようだった。 「マインドさん、どうにかできるんですか?」 「どうにかするしかないだろう。『白の紋章』、解放する!」 迫る魔族たちを前に、マインドは身に付けた覆面を掴み、それを一気に投げ捨てるように外した。 「一気に消すぞ!!」 スパイルの気合の声と共に、その右頬にある紋様が眩い輝きを放った。それに同調するように、マインドの頬も白く輝く。目に見える世界が、白に包まれた瞬間だった。 確かに落ちていた。加速するスピード、遠のく空と己の意識。そして、一瞬の圧迫感にうめくように声が無理やり喉から押し出されていた。 「オ、オマエ……! なんだよ、それ……?」 キトの身体は落下するのを止めていた。マルソーに支えられているのだ。しかし、どうやって何もないこの空中で、彼女は彼を支えることができたのか。 答えは目の前にあったが、それでも訊かずにはいられなかった。あまりにも非常識過ぎる光景、知らぬことはない仲だと思っていたが、それはとんでもない思い違いだったのだろうか。 「わたしにも、わからないよ……」 彼女は、助かったことの安堵と、自らの体に起きた異変に対する戸惑いが入り混じった、なんとも複雑な表情をして答えた。 どうしてこんなことが出来るのか、ではない。それがどうして彼女に有るのかが理解できなかった。 「オレにも、わからねぇな……聞いてねえぞ、こんな展開……」 それは、翼だった。 答えは単純だった。彼女は飛んでいたのだ。翼を持って、鳥が自由に空を駆けるように。 背に広がる純白の翼、果たして、この少女を『天使』と呼んでもいいのだろうか――? |