BRAVERS STORY
〜交錯する時の欠片達〜


〜第三話 「BRAVERS」〜

 今は夜、特に明かりのような物は一切ないこの塔では暗闇だけがフロアを覆って いた。目が慣れると僅かに相手の輪郭程度なら分かるが、それだけでは十分ではない。
 ガーディア、キト、マルソーとの三人は皆寝静まった頃合を見計らい体を起こした。なるべく 声を抑えた囁き声で会合は始まった。
「しかし暗いな… 何か明かりはないのか?」
 キトの影が周りを探るようにせわしなく動く。するとガーディアの影が動き、懐から何かを 取り出した。
「明かりか、ちょっと待ってな…」
 彼が取り出した何かをグッと握ると、突如として淡い緑色の光が彼の指の間から溢れ出てきた。
「きれい…」
 ガーディアが手の平を開けその何かを床に置く。穏やかに三人の周りを緑色に染めるその 幻想的な輝きにマルソーの口からは感嘆の声がもれた。
「これって魔石か?」
 キトが床に置かれたその珠に目を見張りガーディアに訊ねる。その淡い緑の光と形状から彼は それが理解できた。
「そ。これが魔力を吸収し、蓄積することが出来るっていう『魔石』の力。つっても俺は術士 じゃないからこれが精一杯だけどな」
「精一杯ってもっとすごいことが出来るんですか?」
 魅入られたようにジッとその魔石を見つめていたマルソーが顔を上げてガーディアを見た。
「魔術士ならな。魔術ってのは、自分のイメージで形を作って発動する物なんだが… まあ、 火を起こそうと思えば火をイメージして、そのイメージした火を魔力で形作る… 俺は一番初歩的な こと、光らせるってイメージをこの魔石に溜まった魔力に送りこんだわけ。お前らでも簡単に出来る ことさ」
「要するに、ガーディアには才能がないんだな」
「うるさい。俺は肉体派なんだよ」
 キトに悪態をつき、大事そうに両手で優しく包み込んで持ち上げて魔石を見るマルソーを見て、 ガーディアは一度ふっと息を漏らした。
「まあいいや。マルソー、話を始めるぞ」
「あ、はい」
 人差し指で床をトントンと突く真似をしてマルソーに魔石を置くように促す。現実に引き 戻されたマルソーは慌てて魔石を床に置いて座りなおした。二人は緊張した面持ちでガーディアの 言葉を待った。
「じゃあ、まずはお前達二人に訊く。ブレイバーって聞いたことあるか?」
 いきなりの問い掛けに二人は顔を見合わせ同時に首を振った。ガーディアは当然かと頭を掻き 改めて二人を見た。
「魔族と対抗しうる力を持つ者の総称。それがブレイバーって言うんだよ。今この世界には 魔族が氾濫している。ブレイブ、つまり勇気だな。人からは勇敢なる者。対して魔族から見れば その勇気も無謀、魔族に抗う愚かな者としての皮肉としても使われている言葉さ」
「……?」
「つまり、魔族と戦ってるやつらをブレイバーって言うんだ、よな?」
 よく分からないと言いたげな顔をするマルソーの横で、キトがガーディアの言葉を自分なりに まとめて言った。
「ま、子供には分かりにくい説明だったか… 簡単に言えばそんなとこだな」
「…で、続きは?」
 子供と言う言葉に少し反応してキトはガーディアを睨んだが、それ以上は何もせずに続きを 促す。
「…魔族と戦うには単純な戦闘力が必要だ。剣とか術とかな。まあ、それだけなら普通なんだが、 まれに『異能力』を持つブレイバーもいるんだ」
「いのう…りょく?」
「う〜ん…こうとしか言いようがないんでな。要は普通じゃないってことだな。その異能力者 達…まあ全員じゃないが、その一部が集まった集団が『ブレイバーズ』。俺はその集団の一員、 この塔にはある任務のために潜入した」
「その任務ってなんだ?」
 キトが訊ねると、それを待っていたかのようにガーディアは急に顔を真剣な物にした。今 までも表情は真剣だったのだが、雰囲気が違うのが分かる。魔石の光が彼の瞳を更に濃い色にして いた。
「俺は近々この塔を脱出する。これから先を話すってことは、俺はお前達を関わらせることに なるってことだ。お前達は俺について来るか、それともここに残るか今決めろ。でなきゃこれ以上は 話せない」
 しばらくの沈黙の中、緑の光だけが穏やかにその時を待った。
「なんだかな…話がでかすぎてよくわかんねえけど、オレは行くぜ」
「……わたしも」
 最初にキトが言い、その後にマルソーが続いた。ガーディアは二人を見定めるようにしばらく 見つめた後、静かに口を開いた。
「本気だな? 言っとくが、まだこの塔の方が安全かもしれないぞ。外は魔物がいるからな、 そう言った意味ではここの方がルールを守れば身の安全は確保出来る」
「なんだよ。行かせたくないのか? まだ短い付き合いだけど、オレは一応あんたを信用して るんだからな」
「わたしも助けてもらったし…、一人は心細いです…」
「……そうか、まあ、どっちにしても俺は連れて行くつもりだったけどな。これでも責任感は ある方なんでね、一度拾ったもんはちゃんと自分で面倒見ないとな…」
「なにぃ? なんだよそれ…真面目に答えてバカみてえじゃねえか…」
 キトが不満気に口を尖らせる。マルソーはしばらく目を白黒させていたが、キトの様子を見て クスクスと小さく笑い始めた。ガーディアは苦笑してキトをなだめようとして、
「まあ、少しお前達の気持ちを知っておきたかったんだよ。そう怒るな」
「いいけどよ。じゃあその任務ってのを教えてくれよ」
「ん、ああ。俺に課せられた任務はこの塔の建設目的を探ることだ。約十年間。この塔で 暮らして十年俺はそれを探り続けてきた」
「この塔の目的か。そういやそんなこと考えたこともなかったな」
「この塔が何階あるかは俺も知らん。だが、地上でこの塔を超える高さを持つ建物はもちろん 山とか自然の物でもまずない。俺達がいる階層は下の方だが、それでもここから地上は見えない だろうな。今も上へ上へと積み重ねられる用途不明の建物、明らかに何かあることは確かだ」
「それで、目的はわかったのか?」
 興味深げにキトが思わず身を乗り出す。
「いんや。結局分からなかった」
 あっさりと期待を裏切る答えを言ってのけるガーディアにキトはガクリと脱力した。
「期待させるような言い方すんなよな…」
「…でも、そんなに高い所からどうやって抜け出すんですか?」
「おっ、中々良い質問だなマルソー。だが、それは俺の仲間が手引きしてくれることになって いるんでな、心配する必要はない」
 ガーディアに言われ、マルソーはコクリと頷くと口を閉ざした。
「……、まあ今日はこのくらいにしておくか。もう寝ろ、明日も早いからな」
 それを最後の言葉として、そのまま三人は眠りについた。


 生い茂った木々の間から月光が漏れる中、一本の巨木の根元でシンは当たりの気配に 気を配りながら眠りについていた。普段ならそのような事をする必要はないのだが、何か言葉では 言い表せない嫌な予感を拭い去ることが出来ずに今に至っている。
 その行動のおかげか、彼は自分に近づいてくる一つの存在に気が付いた。ゆっくりと瞼を上げ 金の瞳を持ち上げ、見知った者の姿を捉えた。
「ラクルスか。こんな時間にどうした?」
「感じていないのか? 遠くまで気を配って見ろ」
 意外そうな顔をすると、肩に担いだ大鎌を地面に下ろしてラクルスはシンに言った。その 行動が答えになるのだろう。シンは目を閉じ周りの気配を感じ取ろうと意識を集中させた。
「…ッ!!? クァ…ッ!! この感じは…!?」
 それを感じ取った瞬間シンは全身が凍りつくような違和感に捕らわれた。自分の体に流れる 血が激しく波打ち熱くなる。何かが己の中にあるが、それが判らない異物感があった。
 感じられるその巨大な存在に、魔族であるが故に気分が最悪になり、吐き気がした。
「これはまさか… まずいぞガーディア…」
「やはりギアトか? どうやら俺達の存在に感付かれたようだな」
 ラクルスが悪寒に身を震わせるシンを横目で見下ろし、塔の方角に顔を向けた。
「…ラクルス。例の物をくれ。予定変更だ。私は塔の頂上へ向かう」
「これだな。では、俺は雑魚を片付けることにしよう。俺の仕事はそれだけでいいんだろう?」
 ラクルスは一つの皮袋を持ち上げシンに投げてよこした。シンはそれをくわえて受け取り、 彼の後半の問いに頷いた。
「万に一つの事もないと思うが、気をつけろよ」
「ふん… いらぬ心配だ。さっさと行け」
 背を向けるラクルスに対して微かに口の端を持ち上げると、シンは背に意識を集中させた すると彼の紅の鬣が盛り上がり、そこから漆黒の翼が広がった。悪魔を思わせる両翼を羽ばたかせ、 微風が起こると同時に彼の体は空中に浮かんだ。
「…死ぬなよ」
 振り返ることなく背を向けたままラクルスが言う。意外な一言にシンは彼の背を一瞬見 つめたが、すぐに気を取り直して彼に言った。
「ふ、それこそいらぬ心配だな。だが、その言葉有難くもらっておこう」
 シンは森を見下ろせるほどの高度まで飛ぶと、そのまま一直線に塔へと飛び去って行った。


 数多の魔族を従えたその人と変わらぬ姿をした魔族は、天に伸びる己の役目を果たす ために必要なその塔を、空虚な深緑の瞳で見上げていた。
 冷たい夜風が黒味の強い、後ろで束ねられ背中に流されている茶の髪をすり抜け、闇に溶け こむ黒のマントをなびかせる。
「ギアト様… ネズミが二匹潜り込んでいるようですが、いかがします?」
 ギアトと呼ばれたその魔族よりも数倍巨大な、白い毛で全身を覆われた狼に似た獣型の魔族が ギアトの前に進み出た。喉の奥で振動するような低音の声が闇に響く。
「そうだな… ドゥーム、お前に任せよう」
 静かにその魔族、ドゥームに命を下すと、ギアトは背中に背負った自分の背丈を軽く超える、 恐ろしく巨大な大剣を鞘から抜き放ち一気に大地に向かって振り下ろした。
 その瞬間大気は激しい轟音を上げ大剣を境に分断された。木々が悲鳴を上げその身を寄せ 合うように横倒しにされ、遠くで獣の咆哮が聞こえた。ギアトは巻き起こる暴風を瞬き一つする ことなく見据えている。
 大気が静まり元の夜の静けさが戻ると、大剣が水晶のように透き通った紫色の刀身を露にした。 月光が刀身に映え大剣をより神秘的な物に仕立て上げている。
「私は塔に向かう。塔にもネズミが一匹居るようだしな。ブレイバーズか、小賢しい…」
 再び大剣を鞘に収めると、配下の魔族達を残してギアトは塔に足を向けた。



〜後書き〜
どうも、ひ魔人でございます。
『BRAVER』の意味…こんな感じです。(汗)
次回この話初のバトルになります。そして、一応この第一の話は終わります。
一章ずつ分けてそれぞれのプロローグ的な話をして、最後に絡めていく感じで進んでいく 予定をしてます。
キャラ紹介とかもその内に出そうとか思ってたりもするんですが、色々都合上難しいです。(汗)
それでは、また次回にお会いしましょう。(座礼)


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