MOON RHAPSODY

第一回 「始まりはいつも同じこと」



西暦2004年

世界の人々は夢とも思える光景を目にした

月が 二つになったのである

一方は青 一方は赤

通称『青の月』は以前の月と同じ軌道を

通称『赤の月』は不規則かつ規則的な軌道を

この『青の月』と『赤の月』は四年に一度 交差を行っている

これが何を意味するか 知る者は いない





 『青の月』と『赤の月』の出現より20年あまり……
 世界情勢から見れば、この二つの月の出現は大した変化を与えなかった。
 だが、問題は月ではない。問題は地上に出現し始めた「無魔」の存在である。
 この「無魔」は2016年に始めてその存在が確認された。
 場所はどこか。
 超経済大国・日本である。どうでもいいが、有事があるのはいつも同じ国らしい。
 その後も世界各国で「無魔」の存在が確認され、わずか一ヶ月で確認例は全世界で1000件を突破した。
 「無魔」に人間が襲われたという例も500件を越え、これは重大な問題となった。
 この事態に対応すべく、世界連合はあることを可決した。

 それは2004年より現れ始めた異能力者達をかき集め、特殊部隊を作ることであった。
 かくして、世界の主要先進国は予算がないのに特殊部隊を設立せざるを得なくなったわけである。

 どうでもいいことが、オリンピックがある年に毎回異変がなくても良いようなものだが。


そして、現在である。

 ここは日本。ここはジャガイモなどと呼ばれる埼玉県。ここは芋羊羹で有名な川越。
 ここは川越市内の某所。の、三階建てのビル。
 対無魔駆逐部隊日本国所轄関東方面七番隊の本部及び隊員居住所である。
「あー、眠い」
 金髪の少女が机の上に突っ伏しながら言う。
「なら、寝ればいいのに……」
 その隣の席に座っている黒髪の少女がぼそりと言う。彼女にとってはどうでもいいことだから、突っ込む気もかなり失せている。
「そうはいっても、人間に限らず生物は朝起きて夜寝るものなのよ? 今はもっとも日差しが強い二時よ? 寝れるはずがないじゃない……ふわぁ……」
 金髪の少女が大きなあくびをする。
 日差しが強いのと眠いのが何の関係があるんだろう。それに夜行性の生物もいるのに。
 そう思いながら、黒髪の少女が自分の机の上に置いてあるポットから湯飲み茶碗にお茶を注ぐ。
「う〜、やっぱり眠いときは寝るべきよね・・・じゃ、アタシ、寝てくるから、あとよろしく〜……」
 さっきの言葉と矛盾すること言いながら、金髪の少女がふらふらとした足取りで部屋から出ていく。
 黒髪の少女がため息をつきながらお茶をすする。自分はさして眠くはない。
 わずかな時間でも完全な熟睡ができるからだ。この時間はみんな寝ているので、退屈だ。
「はぁ……お兄ちゃんどうしてるかな……」
 またため息をつきながら、自分の兄のことを思い出す。彼女の兄は九州方面二番隊の隊長である。
 そんなわけで、兄と会える日は1年が365日あっても一日にも満たない。
 彼女がため息が多いのは退屈だからではない。退屈にはすでになれている。問題はこの隊の面々である。
「この隊って、問題児だけを集めたのかな・・・はぁ・・・」
 そう考えると自分も問題児ということになる。余計に気がめいる少女であった。

2023年4月20日木曜日PM2:23 天候・晴天。

 今日も退屈な日々が続いている。
 現在の技術レベルは20年前とそう変わっていないが、いくつかの分野では進歩が見られている。
 医療・建築・福祉・交通・軍事などの分野である。その他細々としたところでも発展している、ようだ。
 しかし、細々しすぎてほとんどの人間が気づいていないというのが実状である。


「でも、そんなこと関係ないんだよね……」
 黒髪の少女が愚痴っぽく呟く。彼ら異能力者、DAにとっては技術の向上など無関係なのだ。
 技術者が路頭に迷おうとも。
「……買い物でもしてこようかな……飲み物が少なくなってきたし……」
 そう思って、席を立ち上がったとき、部屋のドアが開けられた。そこにいたのは、長身の青年 ──というには少し老けた感じだが──であった。
「あ、隊長。お帰りなさい」
「ただいま。他は寝ているのか」
「はい。今、飲み物を買いに行こうと思って」
「そうか。では、冷蔵庫に貼ってあるメモを参考にするように」
「はい。行って来ます」
 黒髪の少女は財布とメモを片手に出かけていった。
 長身の青年は棚の上にある小型冷蔵庫から、最後のコーヒーの缶を取ってから、自分の席に座り、朝刊を広げた。今日は朝から出かけていて、朝刊は読んでいなかったのだ。
 横目で窓の外を見ると、黒髪の少女が小走りに横断歩道を渡っていくのが見える。その姿は実に可愛らしい。
 変な輩が寄りつかないか、少し気がかりである。そんなことを考えている間に、少女の姿は消えていた。
 青年は朝刊に目を向け、コーヒーに口を付ける。

今日もまた、何事もなく終わるはずであった。



あとがき オリジナル作品です。プロローグ的な話ですね。キャラの名前も伏せてますし(笑) 隊の名前、長いですね。自分で考えたものですが(爆) さりげなく続き物です(死・自分が) では。


簡易設定

DA:Differ Abilitiers。異能力者の総称。 その特殊能力は人によって様々。 駆逐部隊に所属しているのは全世界で7647人(2023年4月時点)日本では222名が所属。

対無魔駆逐部隊:2016年に設立された特殊部隊。 日本支部では八方面四十六隊があり、一隊に四人から六人で構成される。


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