第六回 「果てなき記憶の先にある邂逅」 あのときどうして 彼女に手を差し伸べたのだろう 今まで 一度もそんなことはなかったのに どうしてなのだろう あのときの感覚を覚えているはずなのに なぜか 思い出せない 彼女が目の前から消えてからは ほんのわずかなことも思い出せなくなった 彼女がいないのに なぜここにいるのだろう わからない…… 2023年10月23日月曜日 PM4:29 天候・雨天 ミーリィと叶はこの日の買い出しを済ませて、ゆっくりと本部への帰り道を歩いていた。 「ねぇ、雨って、好き?」 「え……雨?」 いきなりであったせいか叶の反応が遅い。 「そう。アタシはどっちかって言うと好きな方だけど、叶はどう?」 「うーん、私は……好きでも嫌いでもないよ。天気で好き嫌いないから」 「ふぅん」 ミーリィは買い物袋を左手から右手に持ち替え、ついでに傘も持ち替える。 「じゃあ、病院は?」 「……あんまり好きじゃない」 「そう……アタシも好きじゃない。やなことばかり思い出しそうでね……でも、思い出せないのよ」 「思い出せないって、やっぱり……昔のこと?」 「そのこともあると思うけど、原因は別の……────!?」 急にミーリィが立ち止まり、それに合わせて叶も歩みを止める。 「どうしたの、ミーリィ?」 「……ごめん、叶、先に……帰っていてくれない?」 ミーリィは叶の返答を待たずに荷物を押しつけ、傘を放りだして走り出した。 「え、ちょっと、ミーリィ……!?」 なぜかはわからないかった。でも、追わずにはいられなかった 何を追っているのかもわからないのに、ただひたすら走った 昔感じたあの感じが、思い出せなかった感じが、いまになって強くなった 『確か同じ学校だったよね。アタシはミーリィ、ミーリィ・クローカ。あなたは?』 『私は────』 あのとき出会った一番大切な人 声も顔も名前すら記憶の奥に消えていて その人の感じをずっとずっと思い出せないでいた 『相沢先生……それ……どういう意味、ですか……?』 『すまない、僕にもわからないんだ。ただ、彼女がいなくなったこと以外』 『そんな……じゃあ……もう……会え……ないの……?』 ただ唯一 本当に心を許せた たった一人だけ本当に信じられた その人が目の前からいなくなった いったい誰に心を許せばいいの?誰を信じればいいの? 『自分が本当に心を許せるて信じられる者は自分の力で探さなければ意味がない。だから俺のことを信じなくてもいい』 『自分の……力で………はい、わかりました』 気がつくと、ミーリィは本部の建物の前に立っていた。上を見ると、「赤の月」が毒々しいまでの赤い光を発していた。 「もう、夜になってたんだ……」 我に返ってみると、足ががたがたで歩くのさえつらい。全身が疲労で満たされてしまっているような感じがする。このまま倒れ込みたいくらいだ。 ミーリィはなんとか足を動かして階段を上り、仕事部屋───と言えるかどうかは怪しいが───の扉を開けた。 「あ、おかえり」 聞き慣れた声が耳に入ってきた。それが誰の声なのか一瞬わからなかったが、それが辻 叶という同僚の声であることを思い出した。 「ただいま……あれ、他のみんなは?」 ミーリィは足を引きずってソファーのところまで行くと、倒れ込むようにソファーにもたれかかった。 「出動してる。今回は状況は簡単なものだから私はミーリィの帰りを待つように、って言われた」 「そう、なんだ」 疲労のせいで思考もおぼつかない。目も少しかすんでいる。 「いままでずっと走っていたの?」 「……うん」 「休んだ方がいいよ。部屋まで送っていくから」 「……お言葉に甘えさせてもらうわ」 叶はミーリィの手を取り、そのまま三階の部屋まで引っ張っていって布団に寝かせた。 その時のミーリィは明らかに変だった。ひどくぼーっとしていて、上の空なのだ。いままでこんなことはなかった。叶はミーリィが何かに悩んでいることがわかった。だが、それ以上はわからない。叶の同調能力をつかえば相手の感覚、思考、記憶など共有する状態になるが、叶は感覚以外共有したことはない。思考や記憶を共有しそれを見るのはプライバシーの侵害だと叶が思っているからだ。だが、理由はもう一つある。 共有と言うことは叶の感覚、思考、記憶をミーリィも見られるということになる。叶がそれを無意識のうちに避けているのだ。 翌日…… AM10:04。 菅原はひとり自分で焼いたトーストをかじっていた。 「一人でいるのは虚しいことですね」 なんとなく独り言を言ってみたが、この状況が変わるはずがなかった。虚しいだけだ。 今、この部屋には菅原以外の人間がいない。本郷やアキラがいないのはしょっちゅうだが、いつもいるはずの人間がいないのはというのはどうも空虚感が強い。 そう、叶がまだ起きていないのだ。叶は配属以来、一度も寝坊をしたことがなく、皆勤賞を受賞してもおかしくないくらいだ。 辻が皆勤賞なら宮下は無勤賞だな、とは本郷が言ったことだが、まさにその通りだろう。 「別にいくら寝ていても問題はないんですがね」 菅原はトーストの最後の一切れを口に放り込み、湯飲み茶碗に残っていた緑茶を一口で飲む。一息ついてから、皿を流しに持っていくために席から立ち上がると、部屋の扉が十秒ほどの時間をかけて開く。 「おはよう……ございます」 叶だった。のろのろとした動作で自分の椅子に座ると、デスクの上に置いてある湯飲み茶碗を取ると、手を伸ばして何かを押そうとして、思いっ切りデスクに手を叩きつけてしまった。 「あれ……?ポットがない……」 「すみません、ポットはこっちです」 菅原は叶の湯飲み茶碗を取ると、それにポットから緑茶を注ぐ。 「どうぞ」 「ありがとうございます……」 叶は菅原から湯飲み茶碗を受け取ると、すぐに飲まずにデスクの上に置く。 「顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」 「え……あ……顔色、悪いですか?」 叶は右手で自分の額を触りながらゆっくりと言う。 「ええ、普段と比べるとだいぶ。それにぼーっとしすぎてますよ」 「そう……ですか?」 「そういう態度のことを言ってるんですよ。それで、どうしたんですか」 菅原は自分の椅子に座り直すと入れ直した緑茶を一口飲む。 「初めてのことで、よくわからないんですけど……ミーリィの夢を見たんです」 叶は額に触れている右手を離し、湯飲み茶碗を両手で包む。 「夢、ですか……それほどのことまで同調が可能になっているんですか」 「ミーリィの夢」をもう少し正確に言うと「ミーリィが見ている夢」になる。叶の同調能力は上記の通り、同調対象と感覚や思考、記憶を共有することができる。寝ている状態だと無意識のうちに同調してしまい、相手が見ている夢さえも共有してしまう。ミーリィと叶は相部屋なのだから当然と言えば当然だ。 「たぶん、ぼーっとしてるのはミーリィのがうつちゃったんだと思います」 そんなことあるわけないのだが、そういうことにした。叶自身、理由がよくわからないのだから。 「なるほど……それで、念のため聞いておきますが、それはどんな夢でしたか?」 「えーっと、ミーリィと……女の子が一緒に遊んでいるところでした」 叶は一口緑茶を飲んでから話を続ける。 「その女の子は……全体がぼやけていて女の子だって事がなんとかわかる程度で、他は何もわかりませんでした……あ」 叶が少し高めの音で何かを思いだしたような声を出す。 「どうしました?」 「ミーリィが外に出ているんです。何かを探しているみたいです」 昨日まで振っていた雨はいつの間にか止んでいて、道路には所々水たまりができている。 (アタシ、いったい何をしているんだろう) 昨日は数時間分の記憶が飛んでるし、今日はなぜかこうやって町中を歩いている。7年間こんなことをした日は今まで一度もないのに。頭の中でわかっているのは自分が何かを探しているということだ。 「でも探す物がわからないんじゃどうしようもないわね……」 頭を掻きながらこれからどうするか考える。 別にそんなことを考える必要もないかもしれない。今だってだたあてもなく歩いているだけなのだ。このまま本部に戻ってもいいが…… 「どうもひっかかるのよね……」 「あれ、なんでこんなところに……」 また気がつくと今度はゴーストタウンにいた。わけがわからない。このまま引き返そうかと思ったが、何かを感じて、引き返すことをためらった。 「ほんっとにわけわかんない……」 適当なところに腰を下ろし、自分自身を落ち着かせるために目を閉じる。 しばらくしてから目を開き、顔を上げる。 「…………!?」 ミーリィの目の前に鮮やかな紅色の髪の女性が立っていた。その光景にミーリィは絶句した。自分が追っていたのは間違いなく彼女だ。記憶の奥底にしまい込まれていた彼女の名をミーリィは口にした。 「……悠里……」 今日もミーリィは散歩をしていた。横浜・シティの住宅街から少し離れた道をゆっくりと。 何度も見た変わらぬ風景。これが永遠に変わらない事はない。いつかはこの風景も別のものになるのだろう。 いつも通りの散歩コースには神社がある。名前は知らないが、ミーリィはいつもそこで休憩している。大きな木があって、心地よい風が通る場所で、ミーリィのお気に入りと言っていいだろう。 その神社の境内に入ったとき、いつもと違うことに気づいた。 「あれ、今日は人がいる……」 普段この神社には人が来ることは少なく、せいぜいミーリィのような散歩の休憩をする者くらいだ。 そこにいたのは髪の長い、背はミーリィより少し高いぐらいの少女だった。どこか生気がない。 ミーリィは別段気にもとめず、いつも通り大木の木陰で休もうと歩を進めようとした、そのとき。 どさッ。という何かが倒れるような音がした。何かと思い、そちらの方に目を向ける。 さきほどの少女が倒れている。どうやら石に躓いて転んだらしい。 そのとき、ミーリィは無意識のうちにその少女に歩み寄り、彼女の前に立つ。 「大丈夫?」 そのとき一番驚いたのはミーリィだった。普段ならこんなことはしないのになぜか声をかけた。 「ぇ……うん」 その少女はゆっくりとした動作で上半身を起こし、なぜか正座をしている状態になる。それから顔を上げ、ミーリィの顔を見る。 「お姉ちゃん……!?」 彼女は小声でそう叫んだ。その表情はありえないものを見たかのようだった。 「あ……ごめんなさい、変なこと言っちゃって……」 彼女は恥ずかしそうに言うと、すりむいている自分の膝をさする。 「えっと、立てる、よね?」 確認するように言いながらミーリィは手を差し伸べる。 「うん」 彼女が自分の手をつかむと、ミーリィはその手を引っ張り立ち上がらせる。 彼女の顔をよくよく見ると、見覚えがあるものだった。確か、隣のクラスの─── 「確か同じ学校だったよね。アタシはミーリィ、ミーリィ・クローカ。あなたは?」 「私は如月 悠里。よろしく」 「こちらこそ」 ふと、ミーリィは悠里が右目を前髪で隠していることに気づいた。他人のことに詮索する気はないが、気にならないと言えば嘘になる。 「あ……右目……瞳がないんだ。生まれたときから」 「そうなんだ……」 「でも、ミーリィの瞳の色も珍しいよね。深い緑なんて」 言われてみればそうだ。この多国籍都市でもミーリィと同じ色の瞳を持つ者は一人もいない。一瞬、自分が何者なのか、その疑問が頭に浮かんだ。 「そうだね、言われてみれば。まあ、そんなことはいいから、あっちの木のところに行かない?あそこ、アタシのお気に入りなんだ」 「うん」 その日の夜、ミーリィは受話器を取った。 「あ、久々津さんですか?」 『ミーリィか。どうした』 「あの、今日、友達ができたんです」 『そうか……よかったな』 「はい!それで───」 そのあと、いったい何を喋ったのか覚えていない。その日の出来事が今まで生きてきて中で、一番楽しかった。初めての友達。友達と一緒にいることがこれほどまでに楽しいこととは思いもしなかった。本当に、生きていて良かったと思った。 東京湾内にある非公認ラボの一室。 一人の少女が白い壁に囲まれた部屋の片隅に蹲っていた。金髪と深緑の瞳の少女、その瞳は虚ろで、あまりにも生気が感じられない。 もはや、自分が生きているのか死んでいるのかも理解できない。まだ麻酔の痺れが残っていてうまく手足が動かない。意識も朦朧とし、まともに思考もできない。 きがついたら、ここにいて、わけもわからないまま、からだを、しらないひとたちに、きりきざまれた。 「ぱぱ……まま……たすけて……だれか……たすけて……」 かすれた声が虚しく部屋の中に響いた。 「こんなところにいたくない……ここからでたい……」 何度も何度も同じ事を繰り返している。無意味だとわかったいても。 「たすけ───」 『だったら、自分で道を開いたら?』 「! だれ……?」 少女は部屋の中を見渡す。自分以外誰もいない。 『名乗るほどの者じゃないわ。必要のないことだから』 その声は自分の頭の中に響くように思えた。そうだ、この声は自分に直接話しかけているんだ。 『道を開くためにはあなた自身が引き金を引く必要があるわ。だけど、あなたはそのやり方を知らない。だから、私が引き金を引くための方法を教えるわ』 「どう……するの……?」 『君が生きることを選べばいいだけよ。ここにいては早くに死ぬことになる』 「しぬ……?」 死。その言葉の意味はわかる。わかっている?いや、本当はわかっていないのかも。まだ、生きたという実感知っていない。だから、まだ死にたくない。 『うん、それでいいわ。じゃあ、またいつか……』 でも、本当に死にたくないのかな?死ぬのが怖くないのかも知れない。本当はここで終わってもいいのかも。ここに生きている意味なんて最初から無かったのかも。だけど、だけど─── ────それじゃあ、ここにいる意味がないのよ! アタシはこんなところで終わるためにここにいるんじゃない! だから、進まなければならないの! この、“力”で!──── そして、少女の中の何かがはじけた。否、目覚めた。 乱暴に部屋の扉が開かれ、そこから白衣を着た男が現れた。ここの研究所員だ。 「おい、投薬の時間だ。ついてくるん……なッ!?お前、それはなんだ!?」 少女の手には拳銃が握られていた。まるでおもちゃのような黒い拳銃。少女はその銃口を目の前にいる男に向けた。 「お、おい。変な冗談はやめ」 その拳銃を奪おうと伸ばした腕が急に視界から消え、ドサッという鈍い音が足下から聞こえた。 「あ、あ、あああああああ!?」 男の腕は肩の付け根から千切れ、地に落ちていた。 「お、お前ぇぇ!!?」 「アタシはあなたたちを壊すことになんの躊躇いを感じない。それは、あなたたちも同じ事でしょ?……さよなら。もう、永遠に会うことはないわ」 あまりにもはっきりし口調で少女は言った。少女の中にいるそれは、少女そのものであり、少女がもう忘れていたかつての自分─── 「やっほ、悠里」 「あ、ミーリィ。わざわざお見舞いに来なくたっていいのに」 「そうもいかないわよ。アタシが来なくて誰が来る、なんてね」 つい3日間前、悠里は階段で転んで右足の骨を折ってしまった。それでいまは入院をしているというわけだ。 「全治1か月ねぇ……大きな怪我したことないから、そういうことよくわかんないわね」 「それはいいことだと思うけど……なんでそんなに怪我しないわけ?」 「うーん、運がいいとか?あ、リンゴ剥くね」 「あ……ちょっと」 ミーリィは棚のうえのリンゴとナイフを取る。が、数秒後。 「…………あ゛」 ナイフが深々とリンゴに突き刺さっている。ミーリィはナイフをリンゴから引き抜くと、それを悠里に手渡す。 「ミーリィ、家庭科の成績だけはよくないよね。他は良いのに」 「それは言わないで……よけいに虚しくなるから」 ミーリィが思いっきりため息をついている横で、悠里はくすくす笑いながら手際よくリンゴの皮を剥いていく。 「はい」 悠里は皮をむき終えたリンゴを一切れミーリィに差し出す。 「ありがと……天は二物を与えずっていうけど、本当にそうなのかもね」 「でもリンゴの皮がむけなくても生活……あ、ミーリィは料理のうまい人と結婚しなきゃいけないね」 「あ、それひどい。料理なんて練習すればいくらでもできるようになるわよ」 「でもミーリィって変に不器用だから、無理なんじゃない?」 「変、ってなにが?」 「いろいろよ。器用なのに不器用なの」 「……否定はしないけどね」 何気ない日常。永遠に続かないとわかっていても、いつまでも続くことを望んだ。 だけど、それは叶わなかった。 少女が気がついたとき、頭上には満天の星空が広がっている中に赤と青の月が浮かんでいる。さっきまで白い天井だったのに。周りを見ると、さっきまであったはずの白い壁はなくなっていて、延々と続く海の向こうにいくつもの光が見える。 「なにが……あったのかな……?」 少女自身にもなにもわからない。彼女が忌み嫌っていた白い壁はなくなり、彼女以外そこに人もいない。 そして、その手に握られている拳銃。おもちゃみたいな、1kgもない、本物の拳銃とはほど遠い物だ。 空に月が見えた。赤い月と青い月の二つの月が。 「つく……よみ……」 無意識のままに月の神の名を、それの名を呼ぶ。それはまるでその声に応えるかのように鳴動する。 「はかいよりそうぞうされたもの……それが、あなた……」 少女は月読を空にかざし、初めて笑みを浮かべた。 病院に来たミーリィは悠里の担当医である相沢と入り口で鉢合わせになっていた。 「え……面会できないんですか?」 「いや……実は……彼女は失踪したんだ」 「…………?」 「いなくなってしまったんだ。昨夜のうちに、我々の知らないところで……」 「相沢先生……それ……どういう意味、ですか……?」 「すまない、僕にもわからないんだ。ただ、彼女がいなくなったこと以外は……」 「そんな……じゃあ……もう……会え……ないの……?」 ミーリィはその場にへたりこんだ。頭の中が真っ白になってなにも考えられなくなった。 「あ……大丈夫か」 相沢が慌ててミーリィの身体を支える。そこで、相沢は悩んだ。どうしようかと。 「相沢先生、どうしました」 そのとき、相沢の後ろ───病院の中───から紺のスーツを着た男が声をかけてきた。 「刃神くん……今日は休みを取っていたんじゃなかったのか?」 「野暮用ですよ。彼女は私が送りましょう。相沢先生も暇じゃないでしょう」 「……頼む」 相沢はミーリィを立ち上がらせてからすぐに零司の横を通って病院に戻っていった。 「さて、意識はあるか」 「……ぁ……刃神……さ…ん……?」 「歩けるか。そうでなければ困るが」 ミーリィはその問いに返答せずにふらふらとした足取りで零司に歩み寄り、そのまま零司の胸に倒れ込んだ。 零司はミーリィの体を受け止め、小さくため息をつく。 「大切の人を失った痛み……それを乗り切れるか、正念場だな」 ミーリィの体はちいさく震えていた。そして、その頬には涙がつたっていた。 零司はミーリィの顔を上げさせてその涙を指で拭う。 「やはり、耐えきれないか……精神的に脆すぎるな、今のお前は」 そういいながら、零司はミーリィの頭をなでる。悪夢を見た子どもを、なだめるかのように。 「意味がない、かつてのお前と……同じではな。あれが、わざわざ動いた以上はな」 記憶の中にあった出来事が走馬燈のように頭の中を通り過ぎた。あまりにも突然すぎて少し頭が混乱しているようだ。 「……久し……ぶり」 「久しぶり、ミーリィ……よかった、ちゃんと覚えていてくれた……」 「そうね、今まで忘れてたみたいだけど……どういうわけか知らないけど」 ミーリィは立ち上がってから悠里と視線を合わせる。 「そういえば、髪、どうしたの?前は黒かったけど。結構伸びてるし」 「この髪?気がついたらこうなってたの」 「そう……なんか、意外と話題があるわね……」 そして、ミーリィは思いきり笑い出した。それにつられて悠里も笑い出した。 「ふぅ……」 ミーリィは笑い疲れてそのへんの壁によりかかる。悠里はその横で体育座りしている。 「こんなに笑ったの何年ぶりかな……」 「あなたがいなくなったのは7年前よ」 「そんなに……経ってたんだ」 悠里は空を仰ぎながら目を閉じる。そして、ゆっくりと口を開く。 「私───人間じゃなくなったんだ」 「…………」 悠里の告白にミーリィはすぐには応えなかった。 「でも、ミーリィは一緒に……いてくれるよね」 「なにいってるのよ。人間だろうが化け物だろうが悠里は悠里でしょ」 「……うん」 悠里が頷いて、微笑んだ。彼女の中で一番の笑顔だったに違いない。 「じゃ、行こっか」 ミーリィは悠里の前に立ち、手を差し伸べる。 「こうするのは、二度目だね」 「そうね」 悠里も手を伸ばし、ミーリィの手をつかみ、かたく握る。 この再会が何よりも喜ばしいことと、かみしめた。 「できることなら……このまま、ずっと、ずっとこうしていたい……」 「……アタシもこうしていたい……」 一番大切な人が戻ってきた うれしくてたまらなかった 誰にかわからないけど とても とても感謝したい ───ありがとう 第六回お届けしました。いかがだったでしょうか。 回想ばっかでわかりにくい展開でしたが……わかりましたか? 謎のキャラがでてきて謎が深まるばかりですね(汗) どうやら第八回まで戦闘シーンがなさそうだ…… では、また。 キャラ設定 如月 悠里(きさらぎ ゆうり) 生年月日:2005年2月29日 身長:162cm 特殊能力:領域 7年前に行方不明になっていたミーリィの親友。第二回冒頭のキマイラとは彼女のこ とである。 久々津 将破(くぐつ しょうは) 生年月日:1970年4月19日 身長:179cm DA研究の第一人者。あ、名前しか出てない。 |