=====追憶の語り部=====

〜出会い〜


【act.2】



 俺は深い森の中を歩いていた。

 最近このあたりにモンスターが出るようになり、それに賞金がかけられたというので懐淋しくなった俺は、賞金目当てでそいつのいるという場所まで向かっていたんだ。

 そして2日ほど森を彷徨っていたとき、突然若い女の子の悲鳴が聞こえてきたんだ。
 人間不信にはなったが、だからといって人を見殺しには出来ない――それが何者であれ。



 それが、暗殺者である事を嫌った俺の唯一の信じるべき事だったからだ。



 俺は反射的に声のした方に走っていた。
 森の中の開けた場所で、14,5歳の女の子が魔物に襲われようとしていた。

 怪我でもしてるのか、座り込んだまま動こうとしない。
 俺は舌打ちし、「動くな!」叫びながら走ってきた勢いを利用してナイフで魔物に切りつけた。

 そいつはそんなに強いものじゃなかったらしく、あっけないほど簡単に仕留められた。

「ふう……おい、なんだってこんな所にいるんだ?」

 ここら辺はかなり森の奥まったところで、普通の人間は軽軽しく入ってこない所だ。
 少女は腕に軽い裂傷を負っていたが、そんなにたいした事はないようだった。

 と、その少女の大きな瞳が真っ直ぐに俺に向けられる。
 その栗色の瞳に見つめられたとき、俺は何故か動揺していた。



 あまりにも透き通った瞳を、なんの躊躇いもなく俺に向けていたから――。



「……ありがとう」
「え、あ、ああ。たいした事じゃないからな」


 俺は軽く狼狽しながらも何とか返事を返し、少女に手を差し伸べた。
 彼女はその手を取り、立ち上がろうとしたがしゃがんでしまった。

「っつぅ……」
「おいおい、大丈夫か?」
「うん。足、少しひねったみたい」
「ったく……しょうが――」

 様子を見ようとして膝をついた俺を遮り、彼女は何かのカードを取り出して腕の傷ともども回復しだした。
 淡い光に照らされて、裂傷が見る見るうちに跡形も無く消えていく。

「なんだ……おまえ、魔法が使えるのかよ? それであんなやつにてこずってたのか?」

 思わずそう零すと、彼女は俺をキッと睨み返してきた。


 この、俺に向かって。


「悪かったわね! いきなりだったの、まだこれにも慣れてなかったし……仕方ないじゃない!」

 そうして腰に吊るしてある、大層な刀を示してみせた。
 東国で主に使われる珍しい剣で、この大陸じゃあまり見かけない武器だ。

「そんなの持ってるんだったら、自分で何とかしろよな」

 思わずむっとした俺は大人気なくも、そう言い返してしまった。

 そして、俺たちはそのまましばらくの間睨み合っていたんだ。
 これが彼女との出会いだった。







 第一印象は最悪だったけど、そのまま2人で最寄りの村へ行った頃にはすっかり意気投合していた。
 俺としては意外だったが、たぶん、彼女とは馬が合ったんだと思う。

 彼女の名はエリナ・クロヴァーズといって、しばらく前に家出してきた魔法使いで渡り鳥志望だという。

 しかも、これで俺と二つ違いの14歳というから驚きだ。
 本人いわく、もうすぐ15歳になるらしいが。

 特に目的も無いということなのでお互い独り者同士、しばらく一緒に旅をしてみる事になった。

 俺はエリナがあまりにも危なっかしいから、ほっとけなかったんだ。
 だから、珍しく同行することにした……そう、思っていたんだ。

 一緒にいるうちに彼女に惹かれている自分にも気づいたが、俺は必死になってその感情を忘れようとしていた。




 いつかは、裏切られる。



 彼女だって、刺客が来たら俺を恐れるんだ。今までと同じように、彼らと同じように。

 そうして傷つく前に、そんな感情は忘れ去ってしまおう――二度と、立ち上がれなくなる前に。
 そう、自分に言い聞かせていた。







 旅は順調だった。

 俺は彼女に旅の基礎知識――上手い火の熾し方や、野宿の仕方、身を守る方法等――を教えた。

 彼女は俺に魔法の基礎なんかも教えてくれた。それらはとても新鮮で、楽しかった。
 祖父に貰ったという魔法のカードと刀を、自慢気に見せてくれたな。

 1月がたった頃には、俺たちは随分と打ち解けていてこの旅を心から楽しむようになっていた。


 そんなときに、ついに――刺客がやってきたんだ。




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