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+モノクロ+
その瞬間、世界の全てが白と黒のモノクロとなったのを、今でもはっきりと覚えている。 あまりに強い悲しみだったから、俺の心は壊れてしまった。 あの時から、俺にとっての世界とは常に、白と黒の2色で表現されていた。 青かったはずの空も、緑だったはずの木々も、赤かったはずの夕暮れも。 色鮮やかだった植物達も、生き生きしていた動物達も。 目に見える世界の全てが、味気ないものへと変貌した。 どれだけ嘆こうと、一度変わった世界はもとには戻らなかった。 まるで、取れないサングラスをつけたかのようだった。 不思議なのは、それによって自分の人生ですら、味気なく感じてしまうこと。 あの時から、長い長い時間が経った。 俺は少しずつ生きる意味を掴み始め、過去のことを「過去」と認められるようになり。 またすこしして、大切だと思える人と出会い、「悲しみ」を小さく出来るようになった。 それでもまた世界はモノクロで、とてもさびしいと感じたけれど。 壊れたはずの心は、ゆっくりと治っていくようだと思った。 そして。 ある朝目覚めると、世界は明るい光に満ち溢れていたんだ。 それは、そう、長い間かけていたサングラスをふっとはずしたかのように、あっけなく。 空は青く、木々は緑、夕暮れは赤だけでなく茜と藍色も混ざっていた。 植物達は色鮮やかに、動物達は生き生きとした色をもっている。 目に見える全てが、まばゆく輝いてみえるほどだ。 何が原因なのかはわからない。 壊れた心が治ったのだとも思えない。 けれど、たしかに。 俺は、長い長い時間をかけて、再び色を取り戻したのだ。 俺の世界と、そして、大切な人たちとを。 世界がモノクロの味気ないものとなった、あのとき。 白と黒で覆われた、俺の記憶のある長い長い時間。 俺はそれを忘れたくない、と願った。 悲しい記憶と寂しい想いに囚われた時間だったけど、でも、無駄ではなかったから。 その時間があったおかげで、大切な人たちに出会えたのだから。 今でも時々、わざとサングラスをつけて世界を白ろ黒のモノクロにする。 そうすることで、俺はわざと確かめているんだ。 世界が、美しい色と光で満ち溢れているのだ、と―― |