「ねえ、3Kっていったら何を思い浮かべる?」 「…………」 彼は黙って、あたしをじっと見詰める。 ほらほら、と促すと無表情のまま、 「家の間取り、職業の悪性、……とか、か?」 「悪性……何、その言い方」 「なんとなく。それっぽいし」 短く言って、また視線を本に戻す。 付き合いは長いのだ、馬鹿じゃないから判る、それは。 「それって、今作った言葉じゃない?」 「そうでもない」 「じゃあ、間違い?」 「かもな」 心の底からどうでもよさそうな口調。 でも、ちゃんと相手をしてくれるから、別にいい。 「で、結局どんなの? それ」 「ずるい、きたない、あくどい」 「……違うじゃない、それ。共通点ないし」 そうだな、と言って今度は視線を天井に向け、軽く首をかしげる。 どうやら、彼も思いつかないらしい。 物知りのように見える彼は、実はそうでもないことをあたしはよく知っている。 ただ、他のひとよりほんの少しだけ知っていることが多くて。 落ち着いた態度が、彼をより「物知り」だと思わせているだけ。 「きたない、は合ってるよね。じゃあ、あとは?」 「……なんだったかな。前に、聞いたんだけど」 そう言ってから、あたしを見る。 ごくごく自然な動作で、あたしの髪を撫でる。 ゴミ、と小さく呟いてから、それをゴミバコに落とした。 「で? それがどうかしたのか?」 「あ、そうそう。家の間取りの方を聞こうと思っただけだった」 ふぅん、とあっさり言って姿勢を直す。 興味のなさそうな態度でも、ちゃんと聞いてくれてるのがわかる。 「……ま、でも、どうでもいいや」 「そうか」 それで、話は終わり。 あたしは元通り寝転がって彼の膝で目を閉じて。 彼はそのまま、静かに本を読んでいた。 |