「ケータイって、何に使うんだろ?」 「……何を今更」 唐突な声に、俺は読んでいた本から目を離して幼馴染みに視線を向けた。 彼女は顔いっぱいに不思議そうな表情を浮かべて、俺のベッドに寝転んでいる。 その手には、安っぽい何かのパンフレット。 「携帯は言葉通り、『携帯できる電話』だろ。だったら電話するに決まってる」 「でしょ? なのに、メールとか、いろんな機能がついてるんだよ」 「みたいだな」 どうやら、さっきから読んでいたのは携帯電話のパンフレットらしい。 いろんな機種を見比べては、その多様さに首をかしげている。 「ケータイでテレビも見れるって。じゃあ、普通のテレビはいらないじゃん」 「見にくい」 つまらなそうに言ってくる彼女に、俺はきっぱりと言って読みかけの本に目を落とした。 ぺらり、とページを捲ると隣から「う〜」と唸る声が聞こえる。 しばらく無視していたが、止みそうにないそれに俺はため息を零して本を閉じた。 「で、何を唸ってるんだ?」 「……友達がね、ケータイあったほうが便利だよって言うの」 「ふぅん」 なるほど。それでずっとパンフとにらみ合っているわけか。 どうせ、連絡が取り難いだのなんだのと言われ、購入を勧められてきたのだろう。 俺も覚えがないわけじゃないので、すぐにわかった。 「で、買うのか?」 「ん〜……わかんない。どうしよう」 短く言って、ぽいとパンフを投げ出す。 興味なさそうにベッドから滑り落ちるそれを見やり、不意に彼女は俺に顔を向けた。 「ね、なんでケータイ持たないの?」 「ん?」 「だってほら、機械スキでしょ」 ほらほら、と言って部屋にあるパソコンやら何やらを指し示す。 部屋の一角を占めるそのスペースは、昔から彼女が「魔の空間」と呼んでいる場所だ。 機械ギライの彼女らしく、今もイヤそうな顔をしている。 「別に大して必要じゃないから」 「そうなの?」 「ああ」 ひょいと手を伸ばし、床に落ちたパンフを手にとる。 それには、さまざまな携帯電話が安っぽい紙に色鮮やかに載せられていた。 ぱららとそれを適当に捲り、興味を惹かれなかったのですぐに彼女に手渡す。 「電話なら、電話ボックスや家電を使えばいいし。後はパソコンがあれば必要ない」 「じゃあ、居場所がわからない時に……って、よく言うでしょ。そういう時は?」 「別にないだろ」 キィ、と椅子を揺らして言う俺に、きょとんと目を瞬いてみせる仕草は子供の頃のままだ。 彼女は首をかしげながら、俺をじっと見上げてくる。 「ない、かな?」 「だって、お前がわかるだろ」 俺の居場所は、と言うと彼女は「そっか」と言ってあっさりと頷いた。 そして、彼女の居場所も俺がわかるから、 「じゃあ、必要ないね」 「だろ?」 そう言って、彼女はパンフをごみ箱に放り投げ。 俺は再び、手にした本を読み始めた。 お互いのことは、きっと誰よりも知っているから。 だから、それだけでいい。 |