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+境界+

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「まだ、ダメなんだね」


 そう呟いて、空を見上げた。
 流れる雲も、青い空も、天をゆく鳥も、全てが美しく、雄大。
 なのに、隣に聳え立つ壁が、その美しさを損なっている。


「どうしたら壊せるのか、わからないの」


 いつからあるのかもわからない、巨大な壁。
 それは目に見えるものではなく、ただ、そこにあるということがわかるのみ。

 でも、それで十分。
 彼と彼女の間には、壁があるのだと。
 それが変わることは、ありえないのだから。


「会いたい。触れたい。抱きしめたい。……なのに」


 手を差し伸べる。
 何かに触った感触も、遮られる感覚もなく。
 ただ、そこにある距離、そして確かに存在する「壁」に、阻まれる。


「この壁は、距離。そして、立ち入ることのできるギリギリの境界」


 壁の向こうにいるのは、ただ恋焦がれる、彼。
 その視線の先は、彼女ではない、どこか遠くへと向けられて。


「いつになったら、この壁は消えるの?」


 目に見えることもなく、ただ、そこにある壁。
 それは、二人を別つ距離。そして、境界。


「いつか、境界を越えられる?」




 かけ続ける声に、けれど、答えは――



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<管理人のひとこと>

 思い続ける女性と、思われる男性。
 二人を別つ境界は、高い壁となって現れる。
 そんな、終わりのない思い。

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