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+冷たい手+

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「うわ、ちょ、寒っ!」
「…………」


 外に出た途端、彼女は大げさな声をあげて身をすくめた。
 それくらい、最初からわかっていただろうに。
 というか予想通りの反応だったので、無視して先に進む。


「あ、待ってよ勝手に先行かないでったら!」
「……だったら早く来いよ」


 頬を寒さに高潮させ、幼い表情で駆け寄ってくる彼女がむっと頬を膨らませる。
 いそいそとマフラーを巻きなおし、俺をじとっとした目で見上げた。


「だって寒いんだもん」
「ふぅん」
「ふーん、て何、それだけ?」


 不満そうな表情をありありと浮かべ、俺の腕を引く。
 俺はその言葉に、ぐっと眉を寄せてやった。
 それはもちろんわざとで、彼女もそれを知っているからわざとらしくおびえて見せたりする。


「俺は今朝、寒くなるから厚着をしろ、と言った記憶があるんだけどな」
「……あ〜……うん、そう……だっけ?」
「ああ」


 視線を泳がせ、照れ笑いと共に言う彼女は春らしい薄着をしている。
 雪も減ったからもう暖かい、なんて言って夜の寒さを忘れた結果がこれだ。


「自業自得だろ」
「うう……いじわる」
「誰が」


 こんなやりとりも、もう毎年のコト。
 出会ってから一度の例外もなく、繰り返している他愛ない日常のひとつ。
 だから俺は、毎年同じように、昔からの仕草を繰り返す。


「ほら」


 ポケットに入れていた手を彼女に差し出す。
 彼女はそれを当然のように握り締め、俺の隣に立ち、歩き出す。


「わ、やっぱり冷たいって、アンタの手!」
「ヤなら外せ」
「いーやっ!」


 毎年変わらない言い合いをし、俺達は手を繋いだまま夕暮れの空の下を歩いていく。
 冬の終わり、春の始まりの寒さが風となって通り過ぎていく。

 いつもと同じ、変わらない日常。
 これまでも、これからも、きっと変わることはない。
 繋いだ手は変わらない暖かさを持っていた。




 でも、そこにある気持ちくらいは。

 ――そろそろ変わってもいいかもしれない、と思う。



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<管理人のひとこと>

幼馴染みの、ある日の会話。
変わらないけど、変わって欲しいものもある。
ある意味、ちょっと不自由な関係かもデスネ。

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