漆黒の階段とスロープを抜けた先にはとんでもないものが広がっていた。
昔は天井すら突き抜けて立っていたような高い、高い灰色の建物が横倒しに組み合い、
ヒビの入った通路は黒い石を固めて舗装されている。
ちょうど洞窟の中に大地震で崩壊したビル街をおさめたら・・・こんな感じになるだろう。
「・・・・・予想しとった以上のすごさやね」
「聖地って言うイメージじゃないけどねぇ・・・」
「・・・・・・しゃあない、うちらノーブルレッドにとって聖地言うのはこないなものや」
小型ロボットの頭の上で懐かしいとも寂しいとも思える視線のまま返すラグベル。
「栄華を極めた・・・ノーブルレッド・・・か・・・・・・放れて!!」
「23!!」
警告したショウは自らの足で横に飛び、
ラグベルの声にぴこっ、と機械音で返事した小型ロボットがバーニアを吹かし・・・
そして数秒送れて彼らが元いた位置に、大きな岩・・・いや、コンクリートの塊が落ちてくる。
「あんっ! 惜しい!! もう少しだったのにぃ!!
ま、いいわ、あたしのポジションに迷い込んだのが運の付き、覚悟しなさい、お嬢ちゃんたち!!」
それと同時にやたらとけたたましい声と共に飛び降りてくる人影一つ。
ショートの青い髪に紫色の瞳・・・その服装は豪華そうな真っ白い巫女みたいな服を来ており、
その手には2メートルはありそうな長い棍が握られていた。
「ふふふふふ・・・逃がすとねぇ、あたしがおしおきされるのよ〜〜だから覚悟してねゥ」
「できんわ!!」
危ない目つきと邪悪な微笑みを浮かべる彼女に思わず関西弁でツッコむラグベル。
「ああ、もう・・・今日はついてないなぁ・・・連戦?」
その隣ではショウが大鎌を構え・・・。
ひゅかっ!!
振り下ろされた棍と大鎌が互いにぶつかり・・・・・・ショウの顔が歪む。
「ふぅん、やるじゃない・・・子猫ちゃん、でも・・・あたしに手を出させて事、後悔させてやるわ!!」
山猫じみた笑みを浮かべた彼女は棍を回し、地面を抉るように振り上げる。
「くっ・・・」
その一撃に吹き飛ばされ、慌てて空中で身を反転させて着地するショウ。
「大丈夫なん!?」
「いやぁ・・・すごい馬鹿力・・・」
ラグベルの切羽つまった声にのほほんと答えるショウ。
「ふふふ・・・この攻撃を食らって生きているなんて・・・こーなったらあたしの取っておきを・・・
だいじょーぶ、一瞬で消滅させてあ・げ・る・・・ふふふふふ・・・」
「・・・あかん・・・目がイッとる」
冷や汗を流て引きつった笑みを浮かべるラグベル。
構えられた棍の先に漆黒の闇の玉が現れ・・・。
「またおんどれは洞窟壊す気かぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「いきゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
本物の関西弁と共に飛んできた、細身ではあるが巨大な腕が彼女に叩き込まれた。
「・・・・・・・・・ゴ・・・ゴーレム?」
唐突な出来事に半分思考を止めてその腕の先を見上げるラグベル。
「どうやら間に合ったようやな・・・・・・あんたら、怪我、あらへんな」
細身の体にやたらでっかい杖を握った神官風のいでたちのゴーレムの肩の上に乗っていた、
額にゴーグルをした長い銀髪に銀色の獣目、背中に巨大な十字架を背負った白いコートの青年が
ゴーレムを跪かせ、肩の上からすたりと地面に降りる。
「あのぉ・・・誰ですか?」
「ワイか? ワイはトールメイラー=スミス・・・トールでええで。
んで、このやかましい姉ちゃんがエルティア=ランバード」
ショウの声に反応しがりがりと頭を掻いた後、親指で拳の下を指差し、
「ふふふふふ・・・とぉるぅ〜〜これは酷いんじゃないのぉ・・・」
「ドやかましい!! また洞窟壊す気やったやろ!!」
拳の下からボロボロの状態で何とか這い出してきた彼女にトドメとばかりにげしげしと蹴りをかます。
「・・・・・・生きてるの?」
「不死身らしいからな、こないな事で死ぬわけあらへん」
「ふぅん・・・すごいんだぁ・・・」
「ああっ! 関心なんかしてないで助けてぷりぃず!! 不死身でも痛いものは痛いんだからぁ!!」
目をきらきらと輝かせて見つめるショウに、悲鳴じみた声を上げたエルは・・・。
「どやかましいっ!!」
ごげんっ!!
「あひゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
盛大な音を響かせて振り下ろされたトールの拳に・・・奇妙な悲鳴を上げ、動かなくなった。
「・・・あれ? それって・・・小手?」
「ああ、これかいな・・・義手や」
不思議そうに彼の両腕を見つめるショウにトールは袖を捲り上げた。
漆黒の小手をつけたようにも見えた両腕は、肘より先が無骨な機械製の義手になっていたのだ。
「荒事ばっかりしとるからな・・・マトモな奴よりもこういうのの方がええんや
見た目こんなんやけど、けっこう器用に動くんやで」
そう言いつつキィン、と音を立てて指を鳴らしてみせる・・・。
「なんかすごいもん持っとるんやな・・・あ、後でゴーレム見せてぇ♪」
「ノーブルレッドの連中はなにかっつ〜とそれやな・・・」
「だって・・・うち、そないに大きいの持ってへんから・・・」
いつのまにか好奇心一杯の瞳で見つめるラグベルに引きつった笑みを浮べたトールは、
「・・・・・・そんな事より、あんたらの会いたい相手、来たで」
そう言って彼女らの背後を指差した。
「トール、またエルが何かやったようじゃな・・・」
現れたのは片目や腕など要所に包帯を巻いた、
金髪に深紅の瞳、尖った耳を持つ青いエプロンドレスのノーブルレッドらしき少女で、
傷のためか、その横に立つ脇の下くらい銀髪の同じくノーブルレッドらしき少女に支えられていた。
「何が・・・あったの・・・? どうしてこんな事に?! あなたともあろう人が・・・?
・・・・・・そ、それよりそんなんで大丈夫なのッ?!」
「随分わやくちゃな姿になってるケド・・・大丈夫かいな?」
おろおろとうろたえるショウとは対照的にあっさりと対応するラグベル。
「ふむ・・・お主らが「嵐の渡り鳥」か・・・」
そんな言葉をかけられた傷だらけの少女は、二人をしばらく見つめた後・・・落ち着いた調子で返した。
「嵐の・・・渡り鳥?」
「・・・・・・異変の解明のために時空の“嵐”と共に異世界からガーディアンに導かれた者たち」
きょとんとして呟くラグベルに彼女は静かに語った後、尊大な調子で手を出した。
「ほれ、お主ら持っておるんじゃろ、見せてみるがよい、ミーディアムを」
その言葉に急かされるように二人は慌てて懐からペンダントを取り出し、彼女に渡す。
ショウが取り出したのは銀色、ラグベルが取り出した真珠色の親指の先ほどの小さなプレートで
それぞれの表面には異なった文様が刻まれていた。
「こっちは・・・・・・海のルカーディアのようじゃが・・・はて、これはなんじゃ?」
「運命のライラ言うんやけど・・・」
不思議そうな顔の彼女に反応して答えるラグベル。
「マリアベル様・・・そろそろ」
「なに、そんなに心配せんでもよい・・・」
隣で支えていた少女に彼女は微笑み・・・プレートと彼らの顔を交互に見た。
「お主らにも事の顛末を語る必要がありそうじゃな・・・ついて来い。
・・・・・・それと、知っているかも知れぬが、妾の名はマリアベル、マリアベル=アーミティッジ。
そっちの二人はもう自己紹介したかと思うが・・・
妾の下僕のアームマイスターのトールと、大馬鹿渡り鳥のエル」
「下僕ってなんやねん・・・」
「大馬鹿ってなんですかぁ・・・ちょっとショック・・・」
「お主、その格好で反論できる身分か・・・」
トールの愚痴を聞き流しつつ、
這いつくばったカエルのような格好のエルに引きつり気味な笑みを浮べたマリアベルは、
ふと、自分の隣にいる少女に視線を向ける。
「ほれ、ラナ・・・お前も黙ってばかりでは何も分からぬでは無いか、せめて自己紹介ぐらいせぬか」
「あ・・・はい・・・・」
彼女を支えていた少女の躊躇いがちな声に反応し・・・。
「私はショウっていうの。
まだまだ駆け出しだけど、一応トレジャーハンターとして渡り鳥をやってるよ。どうぞよろしくね♪」
「うちはラグベル=グレースランドッ、まぁ、気軽にラグって呼んだってーな。ほな、よろしゅう♪」
「わたくしの名はラナベル、ラナベル=グレースランドと言います・・・よろしくおねがいします」
先に名乗った二人に丁寧に頭を下げる少女。
「さてと・・・トール、妾は疲れた!! ゴーレムを出せ!!」
「ほんなん自分の使えばええやん・・・『大地を駆ける者(アス・トラーナ)』!!」
マリアベルに反応し、ぶつぶつと呟きつつ彼は指を鳴らす。
その瞬間、空間を割って
十個のタイヤを持つレーシングカーに似た印象のあるシャープ外見のゴーレムが現れた。
「・・・なんや変わったゴーレムやな」
「移動用なんやろ、多分・・・」
ラグベルに反応し、荷物のようにエルを最後尾に放り込み、
一番先端にあるコクピットらしきところに乗り込んで機械をいじりつつトールは返す。
「あ、皆さんも乗られればいいですよ・・・すごく速いんですよ」
すでに乗り込んでいたラナベルが微笑み、顔を見合わせた二人は慌てて飛び乗る。
「・・・全員準備はええか?」
「え、準備って・・・・・・」
呆然とショウが呟いたその瞬間。
「ほな、行くでぇ!!!」
ゴーグルをしたトールの叫びと共にゴーレムは急激に加速し・・・
「あひゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「んなぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
エルとラグベルの悲鳴と、ショウの歓声を引きずって走り出した。
彼らのいる場所とはまったく別の場所でありながら同じ場所の真っ暗な闇の中・・・
その底に、丸い円盤が浮いていた。
上から見ると円盤には黒い深紅の線で複雑な魔法陣じみた模様が描かれており。
その中央にぼんやりと光を放つクリスタルが置かれていた。
クリスタルは無数の面をもっており、そこに何人もの人物の姿が映っていた。
沈黙だけが支配する闇の空間に虚ろに輝く光・・・。
そこにスタリと一人の少女が一匹の獣に乗って降り立った。
緑がかった黒い肩よりやや下までの髪を深い青色のバンダナで止め、
足を切った短いジーンズに赤い大きめのTシャツ、
その上に尻のあたりまでの長袖のゆったりとした上着を羽織っていた。
手には指先の出た皮製の手袋をはめ、腰には大きめのポシェット、右の腿に長めの短剣を吊り
足には丈夫なシューズと膝下まである布を上下、ベルトで縛ったすね当てをつけていた。
そんな彼女が乗っている獣は・・・普通のものではなかった。
人間とほぼ同じくらいの大きさで紫の毛皮に、陽炎のように揺らめく鬣。
頬のあたりから左右に二本づつ、真っ白な角を生やした、犬とも狼とも付かない存在であった。
獰猛そうな顔つきではあるが、知的な意思を感じる瞳を持っていた。
・・・魔犬、欲望のガーディアン・・・ルシエド
ガーディアンの中で唯一実体を持つ存在だといわれている・・・。
「何か面白いことでもあった?」
彼女は大きな明るい栗色の瞳を動かし、暗闇に呼びかけた。
「ええ、まあいろいろと・・・」
その声に反応するように闇の中から苦笑交じりの青年の声が聞こえた。
腰まである首筋で縛られたサファイアブルーの髪にベルトが無数についたごつい蒼色のロングレザーコート、
その下にデニムの上下を着込み、ベルトを巻いた赤いTシャツを着ていた。
「全員・・・動き出したみたいですよ・・・」
包帯がきつく巻かれた左腕がすっ、とクリスタルを指差す。
「本当! やっと本格的に動けるわけね!!」
言いつつ彼女はクリスタルに近寄り・・・・・・そっと手を当てた。
「・・・・・・たくさんの人が・・・傷つくのは・・・あまり本位じゃないんだけど・・・」
「傷は負ってもまた、治すことができます・・・。
争いの多いこの世界でで生きるためには、弱い者は死にますが、強い者はさらに強い者に倒されます、
・・・・・・傷を負っても生き延びた者が、この世界では生きていけるのですから」
「でも・・・傷に耐えられなくなる人が・・・」
「そんな人が出ないために・・・僕らは頑張っているのでしょう?」
そう言って青年は微笑んだ。
サファイアブルーの獣目と左目のブルーのモノクルの下から覗く、
磨ききぬかれたサファイアの玉のような瞳孔の無い両方の奇妙な瞳が優しい光を浮かべる。
「・・・・・・ねぇ、そろそろ教えてくれない?」
負け時と大きな瞳を近づける彼女。
「きみは・・・どこから来たのかな?」
「・・・それは・・・秘密ですよ」
口元に指を立て微笑む青年。
「ただ、僕は貴方たちの手助けに来たことだけは真実です・・・信じてもらえないとは思いますけど・・・」
「・・・ま、いいわ」
ため息をつき、肩をすくめて彼女は呟いた。
「なんにしても・・・私たちの目的のために・・・」
「・・・・・・ファルガイアの平和のために」
顔を見合わせた二人がクスリと笑みを浮かべる。
戦いは・・・まだ、始まったばかりだ。
−記憶の遺跡の戯言−
てなわけで、苦節の末の一話です・・・ここまで来るまでがかなり・・・長かった!!
何度も何度も挫折して・・・やっとこストーリーを固めて、動かすにいたりました。
参加してくれた皆様、本当に待たせてすいません・・・(^^;)
ちなみに・・・旅人たちの話であるWAでは、
うちの看板小説の一つである「幻想水滸伝・現代の宿星」と違い、2タイプの提供が存在します。
一つは幻想同様、PBeMのようにして他の方々から提供してもらったオリキャラ、
もう一つは別のHPに投稿されている・・・WA小説のオリキャラたちです!!
そんなわけで作者が上げる悲鳴も無視して二タイプのオリキャラは
ある時は出番を取るために、ある時は主役の座を争奪するために・・・
我がトンデモ回路内で大乱闘してます・・・。
そんなこんなで、WA、WA2・・・WATV・・・WA花盗人・・・
そして我が作品、WAO他のオリジナル作品を巻き込んでのトンデモ回路の奏でる狂想曲(カプリチオ)
どうぞ、末永く・・・根気良く(死滅)・・・お付き合いいただけると幸いです。
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